COLUMN
2023/03/31

テクノロジーをテコに意思決定を進化させる―予測型経営の実現へ―(3)

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第3回:予測型経営実践の4つのケーススタディ

データドリブンマネジメントは、経営層だけでなく、事業部や現場などあらゆる階層の意思決定を変革していく。本コラムシリーズでは、経営環境の変化から求められるデータドリブンマネジメントと予測型経営について、Ridgelinezの考え方や取り組みを説明してきた。シリーズ最終回は、ある企業の経理・事業管理領域における4つのケーススタディを例に、テクノロジーをテコにしてマネジメントそのものから変革していく予測型経営の実践について紹介する。

意思決定のスピードを上げる

シリーズ第3回では、データドリブンマネジメント実践における4つのケーススタディを取り上げる。最初のテーマは「意思決定のスピードを上げる」である。

企業における意思決定の場面として多くの人が思い浮かべるのが会議だろう。しかし、日本企業の場合、会議における時間のほとんどは報告に費やされてしまい、肝心のディスカッションが少ないという課題がある。さらに、その報告のための準備に多くの労力と時間がかけられ、その結果、報告される情報は1か月半前のデータで古くなってしまっている。これでは周回遅れで会議を行っているようなものである。

意思決定のスピードを上げるためには、このような会議をドラスティックに改革すべきだ。なぜなら、それは全社的な行動様式や組織・風土を変革する鍵となるからである。

例えば、ある企業では「会議25%ルール」を策定し、会議の時間・参加人数、準備にかける労力を大胆に削減する取り組みを進めている。

意思決定の遅さの大きな要因となっていた実績データの集計・分析もゼロベースで見直した。これまで現場 → 事業部 → 経営層とExcelのバケツリレーのようにして集計していた売上や商談データを自動的に集計して一元化。これまでデータ集計にかけられていた労力を大幅に削減し、その分、意思決定のための分析などにシフトできるようになった。

【図1】バケツリレー集計から分析へシフトする経理

また、データを一元化してすべての階層で共有することによって、半導体不足や円安といった経営環境の変化が製品別の売上や顧客別の商談推移などにどのような影響を及ぼしているのかについて詳細に分析できるようになった。

その結果、商談ステージの管理や適切なリソース配分、投資回収管理といった速やかな意思決定が実現されている。

状況に合わせて柔軟に対応する

2つ目のケーススタディは「状況に合わせて柔軟に対応する」である。

すでに述べたように、現状の会議では、1か月半前の実績など過去のデータをもとに検討を行っていることがほとんどである。この場合、年度予算の達成を管理しようとしても、時間軸に1か月以上のズレが生じ、結局のところ判断が遅れてしまい、何も打ち手を出さずに年度が終わってしまう可能性がある。

このような時間軸のズレという課題を解決するためには、意思決定のサイクルの中に「予測」を組み入れることが鍵となる。テクノロジーをテコにした予測モデルを導入することによって、従来まで過去データばかりに頼っていた判断をアップグレードし、現在の状況の把握、さらに2か月先取りした将来の予測ができるようになる。

その結果、売上目標の達成に対しても前倒しで判断できるようになり、「すでに費用を使ってしまった」「何もできなかった」などと手遅れになる前に対応することが可能だ。

逆に実績が上振れしそうな状況についても、数か月前から予測することが可能だ。さらなる成長に向けて追加投資などの施策を年度内に打ち出すことができ、迅速かつ柔軟な意思決定が企業価値の向上に結びついていくのである。

【図2】予算予測管理の効果

また、後ほど述べるが、売上・費用の関係性をモデル化し、予算計画を連動させることで、経営環境と各事業の売上などの因果関係なども推測できるようになる。現状のままでは達成できない、あるいは、さらに施策を打ったとしても見込みがないと予測される場合には、利益率目標の達成のために今度は費用削減の手を打つこととなる。この費用の削減を検討する場合などでも、よくありがちな一律カットといった対応ではなく、細かな戦略ユニットごとにメリハリの効いた調整、例えば成長が期待できるところは投資を継続しつつ、縮小撤退を余儀なくされるところはさらなる絞り込みを行う、といった意思決定ができる。

原因に切り込んでいく

これも日本企業によく見られる課題の1つであるが、売上高や利益率の目標値を設定する場合、その判断を事業部門に任せると、他部門の実績などを意識して、ついつい高めに設定しがちだ。その結果、年度が終わって蓋を開けてみるまで実績が把握できず、たとえ目標未達となってもその原因究明が曖昧になってしまうということが起こる。そこで3つ目のケーススタディとして取り上げたいのが、「原因に切り込んでいく」である。

継続的に利益を向上させていくためには、単に事業部や現場に目標を押し付けるのではなく、現場から事業部、経営層まで同じデータを共有すること、そのデータに基づき「どこをどうひねれば、どう変わるのか?」を分析し、現場側に踏み込んで提言していくことが重要となる。例えば営業利益率を例に挙げても、その結果には様々なファクターが絡み合う。事業部や現場ごとに、ビジネスとコストという2つの構造を分析して理解し、利益確保のポイントを提示することが重要である。

【図3】ビジネスとコストの構造理解による利益確保ポイント分析

経営層と事業部・現場で共通の認識を持つためには、KPIを共有することも有効な手段である。このようにすべての階層において同じデータや目標を共有することによって、全社としての方向性を明示できる。また、計画に対して何が上手くいっているのか、どこに問題があるのかといった原因を把握し、継続的にトラッキングすることが可能になる。

正しい予算を作る

最後に企業活動を進めていくうえで大きな前提となる「予算」について考えてみたい。それが4つ目のケーススタディである「正しい予算を作る」である。

そもそも「正しい予算」とはどのようなものなのだろうか。私たちRidgelinezでは、「自社ポジションから得られる正当な利益」を生み出すための目標・計画と考えている。

例えば、よくあるのが、全社で一律○○%伸長などと見込む例だろう。また、事業部に計画を任せた結果、保守的な数字の積み上げになってしまい、マーケットにおけるポジションが正しく反映されていないということもよく起こる。

前年度比10%増といった好調のように見える実績についても注意が必要である。一見、評価すべき実績のように思われても、マーケット自体が30%成長しているような状況では、売上高は伸びているにもかかわらず市場におけるポジションは低下していることになってしまう。

予算を計画するうえで切り口となる軸が整理されていないという企業も多いだろう。例えば、同じ顧客に対して複数の事業部門が異なる製品形態やルートで販売しているような場合、正しく予算に反映させることは難しい。顧客別・地域別・製品別・用途別といったように予算に関わる軸が複数あり、それぞれ計画が別々といったこともよく見られる問題である。

つまり、正しい予算を組むためには、マーケットにおける自社のポジショニングを正しく行うことが重要なのである。競合に対するポジションを理解したうえで、収益性構造の分析をし、多軸での自社ビジネスの構造分析を行う。さらに、狙うセグメントに対してどこを目標に置くか、を測っていくことで、「正しい予算」ができるのである。

【図4】正しい予算を作るプロセス

予測型経営を実践していくためには、テクノロジーからのアプローチをテコにしつつ、経営や組織、さらには社員たちの意識や文化の醸成なども含めた全社的な改革が必要となる。Ridgelinezは、富士通をはじめ多くの企業においてデータドリブンマネジメントの構築を支援しており、豊富な経験と知識、先進のスキルを活かして、ストラテジーとテクノロジーの両面からお客様と伴走するEnd to Endのコンサルティングを提供している。予測型経営の実現に興味を持たれた場合は、ぜひお声がけいただきたい。

執筆者

  • 大塚 恭平

    Senior Manager

※所属・役職は掲載時点のものです。

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