COLUMN
2024/10/29

AI時代のまちづくりとは(3)
―持続するまちづくりの実現のために―

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第3回:ウェルビーイングな「まち」のために企業が担う役割

AIをはじめとする革新的なデジタル技術によって社会環境やビジネスが大きく変化する中、人々が住むまち、さらにはまちづくりにおいても変化をもたらすと予想される。そうした流れを受け、本コラムシリーズでは、まちの「ソフトな価値」が都市を持続・発展させる仕組みを読み解いて、企業がまちづくりに取り組む意義を考察し、テクノロジーの力を使いながら「まちの豊かさ」を創出するアプローチについて検討する。

シリーズ第2回では、まちにおいて人が「集まる」仕組み、「育つ」環境、「多様な活動や人の成長の支援」、「共通認識として測定できる定量指標」によって、まちの自律的な価値創出の実現につなげている事例を紹介し、まちのソフトな価値向上に地元企業が貢献する重要性を明らかにした。

第3回となる本コラムでは、まちづくりに取り組む意義を、企業、地域、住民それぞれの視点から明らかにする。最後に、AIが今後まちづくりをどのように加速するかを踏まえ、「住民の活躍」ひいては「住民のウェルビーイングの充実」を後押しするために、企業が主体的にまちに関わり、ビジョンを描き、貢献する視点を取り入れることを提案し、Ridgelinezの様々な支援アプローチを紹介する。 

企業がまちづくりに取り組む意義と担うべき役割

企業が収益事業としてのまちづくり(いわゆるデベロッパー事業)ではなく、直接的な事業収益と結びつかないまちづくりに取り組む意義はどこにあるだろうか。ここでは次の3つの観点から、企業がまちづくりに取り組む意義を掘り下げる。

【図1】企業がまちづくりに取り組む3つの観点
出所:Ridgelinezが作成

地域に対する社会的価値のあるサービス提供

1点目は、社会課題解決の観点である。日本の少子高齢化が加速する中で、都市や地域のインフラ維持、子育て環境や医療介護環境の維持といった、地域住民の生活に密接に関係する社会課題の解決に向けて、企業が住民や行政を支援する役割を担う。

人手不足の解消や公共施設の維持といった課題は東京圏や地方に共通して存在するものだ。これは行政だけでは解決が困難な時代になりつつある(※1)。

その課題への対策として民間企業の資金やノウハウを活用するPFI/PPP事業も1999年の制度整備以降活用が進んできており、事業数も1,000件を超え、8,600億円(2023年3月31日時点)を上回る事業規模で今後も成長見込みだ(※2)。

しかし、民間が行うビジネスにおいても同様に人手不足が課題となっている。公共がこれまで実施してきたサービスの代替にとどまらず、産業構造の変化も踏まえたうえで、課題に対する価値創出の提案が民間に求められる。

技術・ノウハウの還元による地域住民との信頼関係構築

2点目は、企業とまちの信頼関係の観点である。企業がこれまで培った技術やノウハウ(=ソフトバリュー/無形資産)を活用して、まちづくりを通じて住民や行政に還元することで、信頼関係を築いていく。

2021年に、大手メガネブランドのJINSが群馬県前橋市に、地域コミュニティのハブとして機能するJINS PARK前橋をオープンした事例がある。JINS PARKは、JINSのサステナビリティビジョンを具体的に体現する施設であり、地域社会との共生を重視している。

JINSの代表取締役CEOである田中仁氏は、2013年から取り組む起業家発掘プロジェクトや廃業した老舗旅館「白井屋」の再生プロジェクトを通じて出身地・前橋市の活性化に貢献してきた。

JINSはこれらのプロジェクトで培った社会貢献のノウハウを反映して2021年にサステナビリティビジョンを策定するとともに、その重点領域の1つである地域社会への貢献を実現すべく地域共生事業部を新設した。そのメンバーはJINS PARKを起点に、地元の自治会や市役所とも連携しながら、地域住民にとっての魅力的な場所づくりを通じてまちの活性化に貢献している(※3)。

このように、企業が培ってきたナレッジやノウハウといった「無形資産」をテクノロジーや場として提供する際には、地域住民の理解を得て、かつビジョンを共有することが不可欠である。単にノウハウやナレッジを提供するのではなく、それぞれの地域に合わせて、住民に何かしらの価値を提供することが必要であり、住民との信頼関係を構築するためには、共通のビジョンや目標を掲げ、時間をかけてコミュニケーションを重ねるといったアプローチが求められる。

実証の場の創出と多様な人材獲得

3点目は、人材獲得の観点である。地域の課題解決や社会課題の解決に貢献したいという優秀な人材を獲得し、まちづくりを通じて育て、地域社会に還元するのである。日本では2019年以降、労働人口が増加している地域は南関東と近畿の2つの地域のみであり(※4)、地方企業は限られた労働力で事業を推進しなければならず、また新規の労働力確保も難しい状況だ。

そうした中で、まちづくりを通じて人を集め、育てる取り組みを推進している事例がある。

例えば、千葉県柏市のつくばエクスプレス柏の葉キャンパス駅周辺では、「公・民・学」連携によるまちづくり拠点を中心に課題解決型のまちづくりを推進している。柏の葉キャンパス駅周辺を含む柏市柏北部中央地域は2007年時点で人口625人だったが、三井不動産を中心とした開発事業によって、2023年時点では13,369人の都市に成長した(※5)。

柏の葉キャンパスでは、施設などハードの整備だけでなく、「アジア・アントレプレナーシップ・アワード」といったイベントを通じてスタートアップの育成や支援を行っている。受賞企業は柏の葉における社会実証のサポートが受けられる。また、柏市にとっては、柏の葉における新産業創出が期待できる(※6)。

こうした取り組みは、地元企業にとっては、まちづくりを通じて課題解決の種を実践に落とし込む機会でもあり、かつ優秀な人材獲得や育成という面でも、多様な人との関わりや課題に向き合い共創する場を経験するという意味で非常に価値のある場と言える。

以上、企業がまちづくりに取り組む意義として3つの観点を紹介してきた。まちづくりは企業経営的には直接的な収益には結び付きにくいものの、企業にしか果たすことができない役割があるという意味で重要である。限られた人的資本で事業を行う企業にとって、まちづくりは新たな企業経営のあり方を見つけ、実践できるフィールドになるのではないだろうか。

(※1)AIインクルージョン推進会議(第5回)「地域・地方の現状と課題」(総務省ホームページ)
(※2)PFI事業の実施状況(令和4年度)(内閣府ホームページ)
(※3)いち企業の“PARK”が地域の復活劇を後押し──JINS(日経BP ひとまち結び)
(※4)地域における人手不足問題(内閣府ホームページ)
(※5)北部まちづくり事業の進捗状況(柏市ホームページ)
(※6)アジア・アントレプレナーシップ・アワード(AEA)(柏の葉スマートシティ)

住民と協働するまちづくりにおいて考慮すべきこと

ここまで企業の視点から、まちづくりに取り組む意義についてみてきた。では、住民にとって、まちづくりはどのような意義を持つのだろうか。住民にとってのまちは「将来も住み続けられる」また「自分の生まれ育ったまちとして誇りを持つことができる」ものであるべきであろう。そのためには、住民自身が活躍でき、かつ住民のウェルビーイングが充実し、地域経済が循環するまちを実現する必要がある。ここでは実際に成功したまちづくりの取り組み事例を通して、住民との関係性をどのように考慮すべきかについて考察する。

まちは長い年月を重ねる中で環境が大きく変化する。そうした中でまちの持続的な成長に向けて、テクノロジーを活用した市民参加型のまちづくりを推進している例がスペインのバルセロナだ。

バルセロナでは、2000年代の経済危機による失業率の上昇や経済活動の低迷、人口増加に伴う環境問題を解決するために、都市生態、循環型、自給自足の観点から市の中心地の交通量を減らし、公共空間の質を向上させることを目的とした「スーパーブロックプロジェクト」を推進した。具体的には、バルセロナの一部区画を歩行者と自転車専用の「スーパーブロック」に変更するほか、道路の中央に子どもの遊び場や植木鉢を設けた。その結果、より安全かつ健康的な環境を作り出し、人が歩きやすくなったなどの要因で集客数が伸び、店舗数が30%増加した地区もある(※7)。

さらに、バルセロナでは約1,800台のIoTデバイスを設置しており、駐車場、街路灯、公共交通、ゴミ収集など、様々な行政サービスでデータ活用を推進している(※8)。一般データ保護規則(GDPR)やAI規制法など、個人情報の取り扱いに関して厳しいEU加盟国であるにもかかわらず、バルセロナがデータ活用に関する住民の理解を得ることができたのはなぜか。その要因の1つは、市民視点に立った考え方である。

実際に、2015年に就任したアダ・クラウ元市長は、「市民生活に関する様々な情報やデータは、市民に属するものであり、市民に還元すべきものである」という考え方を表明した。また、都市の変化や状況をデータによって市民に届けることで、行政の政策決定のプロセスを透明化した。

さらには、都市の運営に市民が主体的に参加できる環境を育てるために、行政と市民との間に信頼感を醸成する取り組みを推進した。その事例が、市民自ら課題を発見・共有し、新たな政策を提案するためのオンライン参加型プラットフォーム「デシディム」である。同プラットフォームはリリース後3年間で市民の70%が登録。9,000人以上の市民から新たな政策提案の声が届くプラットフォームの普及が加速した(※9)。

バルセロナの事例で着目すべきは、「市民主導」のもと、まちづくりを市民・行政・企業が連携して進めた点にある。市のデータはあくまで市民ものであるという前提のもと、透明性のあるデータ活用によって市民が抱く「まち」に関する課題を政策に反映できる仕組みを作り上げた。まちづくりへ参加することで何に対してどのように貢献できるかを明らかにし、市民との信頼関係を築くことが、市民と協働するまちづくりにおいて必要となる。

【図2】バルセロナの事例にみる市民協働のまちづくり
出所:「スマートシティ先進都市バルセロナ市の取り組み(※8)」を参考にRidgelinezが作成

(※7)バルセロナで相次ぐ「スーパーブロック」とは?歩行者優先を追求したら実現した計画(朝日新聞GLOBE+)
(※8)スマートシティ先進都市バルセロナ市の取組(2018年7月可視化情報特集記事/小林巌生)

AIが加速させる未来のまちづくり

バルセロナの取り組みは、ナレッジやノウハウの提供、まちづくりを担う人材の確保と育成を行政や企業が支えてまちに還元する、「ソフトバリューの循環型まちづくり」を実現している先進的な取り組みである。

さらに、このような取り組みを支えるのがデジタル技術である。特にAIをはじめとする技術の発展は多くの企業の変革を促して成長の核となっている。

その結果として起こる「集合体としてのまち」という視点に立ち、冒頭で提起した「AIが加速させる未来のまちづくり」について考察してみたい。

今後のAIのトレンドについては、第1回コラムにてSXSW(サウスバイサウスウエスト)2024でのエイミー・ウェブ氏の発言にも触れたように、脅威となる懸念も大きい。一方で、現地SXSWでのセッションやデモなどの観測から、「パーソナライズ化」「AIのマルチモーダル化」「生成AIの高度化とコモディティ化」などの視点でさらなる進化を予測した。こうしたAIの進化でまちづくりを直接的に加速する大きな要素には「スキルの民主化」「意思決定の前提情報量の増加」「意思決定サイクルの高速化による認知の高度化」(※9)の3つが挙げられるとRidgelinezでは考察する。

【図3】今後のAIの進化とAIが加速させる人の行動変容の仮説
出所:RidgelinezのAI関連取り組み実践知から作成

上の図3で挙げたAIが加速させる3つの要素(「スキルの民主化」「意思決定の前提情報量の増加」「意思決定サイクルの高速化による認知の高度化」)について、一般的に人がどのように物事を認知し、行動するのかというモデルに照らして、AIが加速させる変化を視覚化したのが以下の図4だ。

AIの普及がもたらす変化としては、知覚・解釈・評価比較の領域で「意思決定の前提情報量の増加」が起こり、行為のプロセスの過程で「スキルの民主化」が起こる。これによりフィジカルな制約を超えて、誰もがより多くのことを実現可能になる。さらに「意思決定サイクルの高速化による認知の高度化」 がこのサイクル全体を高速化させ、予知・シミュレーションに基づく一連の決定を行うように認知機能が高度化していくのではないだろうか。

【図4】AIが加速させる「人の認知と行為のプロセス」
出所:ドナルド・ノーマンが提唱した「行為の7段階理論」(※10)を基にRidgelinezが作成

さらに、第2回の記事で考察した「まちを育てる仕組み」に照らして、どのようにAIが変革を加速させるかを考察する。

【図5】AIの浸透が「まちを育てる仕組み」の変革を加速させる
出所:Ridgelinezが作成

AIの進化と他のテクノロジーとの組み合わせによる発展で、よりパーソナライズ化されたAIが能力の拡張やコミュニケーションの円滑化を支援することが起こり得る。例えば生成AIを活用しパーソナライズ化されたAIエージェントを考えてみると、住宅の中で生じる家事のようなタスクを高度に処理するタスク処理型AIエージェント、人々のつながりを盛り上げ、エンゲージメントするコミュニティ型AI、旅先や自然の中など、不自由を感じるときにも多様な選択肢を示してくれるコンシェルジュ、多くの人が集まる場所での緊急時に避難を支援するような場所に紐付けされたAIなど、その可能性は広がっている。

さらに、人と人や人とモノ、人と自然といった様々なコミュニケーションをAIが支援する接続点でユーザー体験が向上すれば、誰もが自然に自分らしく生活できる未来も実現し得る。

もっとも、加速するのは良い点だけではない。AIによるレコメンドやAIが提示したもっともらしい「正解」を選択することが当たり前になったとき、改めて「自分にとって価値のあるものは何か」「自分のホームとして感じるまちや居心地の良い場所、風景とは何か」「何を価値として守っていきたいのか」が問われてくる。

スキルの民主化によって、これまで参加できなかった人でもまちづくりに参加できるようになる一方、AIによるシミュレーションとレコメンドは加速していく。決して遠くない未来において、まちのユニークさや居心地の良い風景といった価値に焦点を当てられるようになったとき、それらの価値を育てていくためには個々の意識の変革が必要だとRidgelinezは考える。

(※9)AIで加速する要素はRidgelinezにおける実践知から得た仮説である。「スキルの民主化」とは、ディスアビリティを超えて、誰もが能力を拡張し五感を補強できるようになること。「意思決定の前提情報量の増加」とは、意思決定のための準備作業労務が自動化され、多種多様な視点での情報をタイムリーに入手し判断することが可能になること。「意思決定サイクルの高速化による認知の高度化」とは、意思決定サイクルが高速に回り、また他人との共有、比較、集合知としての蓄積が可能になり、自己認知がメタ化し高度化すること。
(※10)ドナルド・A・ノーマン著『誰のためのデザイン? 増補・改訂版』 新曜社 (2015)

Ridgelinezが目指すアプローチ

ここまで、企業がまちづくりに取り組む意義や考慮すべきこと、そしてAIが加速させるまちづくりについて考察した。最後に、このような志を持つ地域に根差す企業がどのようにまちづくりに取り組むべきか、Ridgelinezが提供し得るアプローチと事例を紹介する。

先述したバルセロナの例からは「主役はあくまでも住民であり、行政との信頼関係に基づき『ありたい姿』を共に描くアプローチが理想である」と言える。一方で、日本でまちづくりをリードするためには、第2回コラムで述べたように、地域に根差す企業が、人を集め、育て、支援するうえで重要な役割を果たすと考える。

さらに、「AIが加速させる未来のまちづくり」の項で触れたように、AIは様々な可能性を広げる一方、まちの個性の消滅を加速させる未来があることも忘れてはならない。まちづくりを担う地域の中核企業は、企業としてだけでなく、社員一人ひとりが住民の視点での意思をもって、社会に対する責任を意識することが重要と考える。

Ridgelinezでは、そのような取り組みを進める企業の構想を「人」を起点にした発想で伴走支援する。活動の軸となるプロジェクトの企業経営における戦略的位置づけや、ハンズオン性の高い新規事業立ち上げでのチームビルディング、AI等先端テクノロジーの活用を踏まえた計画・実行を支援し、業界横断での取り組みが必要なテクノロジー活用による新しい形のまちづくりを推進する。

【図6】Ridgelinezのアプローチ
出所:Ridgelinezが作成

ここでRidgelinezの支援事例の1つとして、富士通が取り組んでいる川崎でのまちづくり事業を紹介しよう。

富士通は2022年に等々力スタジアムや等々力アリーナを含む等々力緑地一帯のPPP/PFI事業に、東急株式会社を代表とするコンソーシアムの構成企業として参加し、公募選定された(※11)。

Ridgelinezは同プロジェクトに着手するにあたって、デジタル構想策定のほか、スタジアムを活用したテクノロジーの共同開発や企業間連携PoCの支援などを行ってきた。

同スタジアムは2024年1月よりネーミングライツ契約により「Uvanceとどろきスタジアムby Fujitsu」という愛称がつけられた(※12)。グループ企業でもあり本スタジアムをホームとして利用する川崎フロンターレは地域貢献企業としてJリーグでも10年連続選出される(※13)など、地域活動の点でサッカー業界をリードする特異な存在だ。プロサッカーチームとして、ファン・サポーターだけでなく、地域で応援してくれる企業を増やし続け、ベトナムでのスクール展開などアジアへの展開も進めている。

なお、富士通は、2024年4月にワークライフシフト(※14)の一環として、汐留にあった本社機能を川崎市に集約し、創業の地である川崎中原の拠点を「富士通テクノロジーパーク」として整備する取り組みを開始している。

この取り組みは現在進行形であり、まちづくりへのアプローチとしてはスタートしたばかりだ。だが、AIを筆頭に技術進化が著しい時代を乗り越えて次世代が誇れるまちにするため、Ridgelinezは人を起点として未来のありたい姿をナラティブに描き、長期的な視野で具現化するステップを明らかにすることで、企業の新しい価値創出を支援していきたいと考えている。

(※11)等々力緑地再編整備・運営等事業の落札者を決定しました(2022.11.8)(川崎市ホームページ)
(※12)富士通、等々力陸上競技場のネーミングライツ契約を締結 愛称は「Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsu」(富士通プレスリリース)
(※13)Jリーグスタジアム観戦者調査 2004~2019年 地域貢献度 10年連続 「第1位」(川崎フロンターレウェブサイト)
(※14)「Work Life Shift」のさらなる進化に向けた首都圏拠点の機能見直しとデータ活用による生産性向上(富士通プレスリリース)

まとめ

本コラムでは、AI技術の進展が急速に進む中で、これからのまちづくりの発展と都市の持続可能性を支えるキーワードとして「ソフトな価値」が重要視されるようになってきていることを、全3回の連載で解説してきた。最後にその要点をおさらいしよう。

まず1では、まちに求められる価値の変遷と、現代におけるまちづくりの新たな視点について整理した。かつては建物や道路、水道などのインフラに代表される「ハード」の存在が重視されてきたが、社会の成熟や情報社会の発展により、「ソフト」な価値が注目されるようになった。換言すれば、「有形資産」ではなく、「無形資産」を重視する流れとも言える。具体的な事例としては、ポートランドやデンマークのコペンハーゲンにて住民のWell-beingを重視したまちづくりを行っていることを取り上げた。

第2回では、人に着目し、まちの無形資産を育み持続させるためのアプローチを検討した。無形資産は地域に関わる人的資源が重要であり、これらがまちの原動力となることをポートランドや下北沢、雲仙市などの事例を通じて紹介した。これらの事例からは、地域の魅力を活かしつつ、ソフトな価値を最大化する取り組みが行われていることが示唆される。また、そうした活動を支える要素には、価値交換のインフラや、多様な活動主体が自律的に動くための指針となる計測可能な指標があることも整理した。

第3回では、企業がまちづくりに取り組む意義と役割について考察したうえで、企業が地域に対する社会的価値を提供し、技術やノウハウを還元することが重要となる点について言及した。また第1回の冒頭で触れた「AIが当たり前の世界におけるまちづくりとは」というテーマのもと、最後に、AIがどのようにこれからの時代のまちづくりの変化を加速することができるのか、考察を深めてきた。

まちづくりの主要な担い手はかつてのように行政や一部の企業だけではなくなっている。まちの発展に求められる役割もケイパビリティも、地域に根差した信頼のある企業やテクノロジーを提供する企業、また、それらの企業に所属する個々人、住民個々人など、多様化している。その中で、共感できるビジョンを共に育て、協力し合いながら持続可能なまちづくりを実現するアプローチが必要となる。Ridgelinezでは、共に価値を創出する企業の構想の実現を「人起点」で伴走支援したい。

執筆者

  • 海谷 真理

    Manager

  • 宮下 賛紀

    Manager

  • 川野 雄基

    Consultant

  • 中西 利基

    Consultant

※所属・役職は掲載時点のものです。

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