IT Japan 2025 講演レポート:業務主体がAIになる時代の企業変革-AI研究最前線から見える新たな成長戦略-

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生成AIや自律型AIエージェントの急速な発展が世界の産業構造を大きく揺るがしている。日本企業はAIの戦略的活用という最重要課題に向き合う一方、知識や実践例の不足、人材・組織の壁など、多くの課題を抱えているのが現状だ。2025年8月27日(水)~8月29日(金)に開催された、日経BP主催「IT Japan 2025」のセッションに、Ridgelinez代表取締役社長CEO 森光威文と上席執行役員Partner 野村昌弘、富士通 執行役員常務 富士通研究所長 岡本青史氏の3名が登壇。経営/ビジネス視点とAI研究の最前線から、企業がどのようにAIに向き合い、AIの戦略的活用や全社展開を進めていくべきかについて、実践事例を交えながら提示した。

※この記事は、2025年8月27日(水)~8月29日(金)開催された「IT Japan 2025」のセッションでの講演に基づき「日経コンピュータ 特別レポート版」に掲載されたものです。
本記事は、日経BP社の許諾を得て掲載しています。

森光 好むと好まざるとに関わらず、AIは企業の、またビジネスのカタチを大きく変え始めています。しかもそれは現在進行形であり、今後は加速度的に広がっていくでしょう。私たちRidgelinezはこれまで多くのお客様のAI導入を支援してきました。

野村 ある製造業のお客様では、ユーザーからの問い合わせに対し、AIエージェントが情報を自律的に調べて回答する仕組みを構築しました。従来は人が行っていた情報収集やアクションを、AIエージェント同士の連携によって実行できるようにしたわけです。AIが人の作業の代替や能力拡張、意思決定の支援を実現した事例と言えます。 

AI中心の業務プロセスでも最終責任は人が取るべき

森光 これまでのように「人と組織」だけではなく、これからは「人と組織とAI」を考える必要性がありますね。ところで、業務プロセスが人中心型からAI中心型へと変化していく中では、あるAIエージェントがミスをすると、それが連鎖してしまう懸念はありませんか。

野村 AIも人と同じように間違えるので、あくまで最終責任は人が取ることが大切です。今後は、人材育成や役割の転換を含め、雇用や組織設計を抜本的に見直すことが必要になりますが、仕事の進め方自体は、指示を出す相手がAIでも人間の部下でも変わりません。

森光 AIをはじめとする先進テクノロジーについて、研究を進めているのが富士通研究所です。AI関連の特許出願数が国内で3年連続の最多実績を誇り、国際会議での論文採択も世界トップクラスというAI研究の最前線にいる組織です。岡本さん、現在のAIエージェントを支えるテクノロジーや潮流について教えてください。

岡本 いくつかありますが、なかでもホットなのがLLM(大規模言語モデル)をより小規模なサイズにシフトする技術です。これが実用化できれば、生成AIを活用する際のインフラの選択肢が大きく広がります。当社では、「蒸留」と「量子化」という2つの技術を用いて、パラメーターサイズを99%削減、メモリー使用量を94%削減しながら推論を5倍高速化するといった成果を達成しています。同時に、元の大きなモデルより回答精度が33%ほど高まるケースも確認できています。
もう1つは領域特化型への流れです。何でもそれなりにこなすAIモデルから、特定領域の高度な課題を解決できるAIモデルへとニーズが移りつつあります。富士通では製造、建築、ソフトウエアの保守、医療などの分野でお客様との実証を進めています。

森光 企業・組織は、それらのテクノロジーとどう向き合うべきでしょうか。

岡本 領域特化型の先にあるのが「個別化」だと、私は考えています。具体的には、それぞれの企業が独自のAIモデルを持つ時代には、AIモデルは単なるツールではなく、その企業の差別化を決定づけるアセットとなり競争力の源泉になります。この世界を見据えることが大切です。
一方で、AIの社会実装やビジネス適用が進むと、AIの信頼性に対する重要性がより高まります。法やガイドラインの遵守、AIの倫理・品質・セキュリティーの強化、さらにはハルシネーション(幻覚)やバイアス(偏り)への対処がますます重要になるでしょう。
富士通研究所はAIの開発から運用までのリスクを分類・分析・対策する「AI監査」や、リアルタイムで幻覚の検知・緩和を行う「AI幻覚対策」などの技術開発を進めています。

データが揃うのを待たずにまず使い始めることが肝心

森光 まさに、AI普及のボトルネックを解消する技術が次々と開発されていますね。企業が個別のAIモデルを構築する世界では、各社が保有する非公開情報や暗黙知の重要性が増すでしょう。

野村 AI中心型の業務では、人の側にも発想転換が求められます。例えば、AIから出た答えが求めるものではなかった場合、「やりとりの過程で何を選択すべきだったのか」、あるいは「次にどのようなデータを投入すればよいのか」などを考え、意思決定する必要性が生じます。これは従来の業務になかった視点であり、その意味で、過去の延長線上にはない全く新しい業務プロセスを構築することが重要です。
さらに、人の役割が変わる中で重要なのは、人が新たな業務や価値を創造できるようにすることです。データだけでは見出せない、ダイナミックな生産性向上を目指すことが、これからの人の役目だと私は考えています。

森光 人や組織が大きく関わるとなると、AI活用はCIOだけのテーマではなく、組織全体を見るCEOがコミットすべきものと言えます。もちろん、AIは魔法の杖ではありませんが、その杖をうまく使いこなす企業こそが勝者となります。AIと共に人も進化することを念頭に置きながら、早く使い始めて継続することが重要です。
差別化の鍵はやはり、企業が持つデータや経験値だと思います。フィードバックループを回して、企業ごとのAIモデルの改善を積み重ねていくことが、競争優位性を生むポイントとなります。

野村 その通りです。現在発注しているデータは1年後には手に入りません。全てが揃うのを待っていては出遅れてしまうので、まず活用を始めていただきたいと思います。 

岡本 現在の技術の進化を見ていると10年、早ければ5年で大きなブレークスルーが起きるでしょう。企業経営者は、変革の中でAIをどう位置付け、競争力の源泉にしていくかを早急に考えていかなければなりません。

本講演のアーカイブ動画はこちらに掲載しております。

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※所属・役職は掲載時点のものです。

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