AI戦略

AI戦略の新時代—企業はどのようにAIと向き合うべきか

AI技術の進化は企業経営のあり方を根本から変えつつあります。生成AIや大規模言語モデル(LLM)の登場によって、これまで人間が担ってきた業務がAIに代替・補完されるようになり、その領域が急速に拡大しています。今や、AIは単なる業務効率化ツールではなく、企業の競争力そのものを左右する存在となりました。

しかし、現状では多くの企業が「AIを導入すれば生産性が向上する」といった表層的な視点にとどまり、十分な戦略なしにAI活用を進めています。AIの本質は「業務効率化」だけでなく、企業が持つリソースの拡張と、新たな価値創造の加速にあります。その本質を活かすためには、AIを経営の根幹に組み込み、戦略的に活用する明確なビジョンと実行計画を策定する必要があります。

以下に、企業がAI戦略を策定する際に考慮すべき重要なポイントを整理し、AIを競争力の源泉とするための戦略的アプローチについて詳しく解説します。

AI戦略策定に必要な検討項目

AIを企業戦略の一部として位置づけ、最大限活用するためには、以下の8項目を明確に定める必要があります。

1. 中長期ビジョンの策定

AIを企業の成長戦略にどのように組み込むのかを明確にし、5年後、10年後のAI活用の方向性を定めることが重要です。

2. 主要ユースケースの洗い出し

自社の業務プロセスを分析し、効果が高い領域にAIを適用することで、導入の成果を最大化します。

3. 実行計画とKPIの設定

AI導入の効果を測るためのKPI(重要業績評価指標)を策定し、競争力向上につながる形で評価する仕組みを整えます。

4. ロードマップの策定

AI導入を段階的に進めるための短期・中期・長期の目標を設定し、計画的に実行します。

5. アーキテクチャ設計

AI技術の変化に柔軟に対応することが可能な基盤を構築し、データを中心としたアーキテクチャ方針を策定します。

6. データマネジメント方針の策定

AIの精度と競争力を高めるために、データの収集・管理・活用のルールを明確にし、企業の資産として戦略的に管理します。

7. 推進体制の構築

AI導入をスムーズに進めるため、現場と経営層の間で連携できる推進体制を整備します。

8. ガバナンスルールの策定

データの取り扱い、AIの倫理的問題、コンプライアンスなどを考慮し、適切なガバナンスルールを定めます。

AI戦略策定を進めるうえでの重要な観点

AI戦略策定を進めるうえで、特に重要となる3つの観点を以下に説明します。

1. AI活用の目的は「生産性向上」だけではない—競争力の源泉としてのAIシフト

AI技術の進化は、企業の競争力そのものを左右する時代へと移行しています。これまで、AI導入は「生産性向上」や「コスト削減」が主な目的とされてきました。しかし、AIの本質的な価値は、業務効率の向上にとどまらず、企業の成長モデルを根本から変革し、競争力の源泉となることにあります。

AIをどのように活用するかによって、企業の優位性は大きく変わります。短期的な業務最適化を超え、製品・サービスの改善サイクルを加速し、新たな価値を創出し、企業の成長を飛躍的に高めることができるかどうかが、今後の競争の行方を決定づけます。AIを単なる業務支援ツールとして扱うのではなく、戦略の中核に据え、企業活動のあらゆる領域に組み込むことが不可欠です。

(1)生産性向上を超えたAI戦略の本質

以下では、AIをどのように戦略の中核に据え、企業活動に組み込むか、企業活動におけるAI活用がどのように企業の成長および競争力に寄与するかを具体的に論じます。

① 短サイクルでの製品・サービス改善

AIは、企業の意思決定や業務プロセスを高速化し、製品・サービスの改善サイクルを短縮します。データ分析やフィードバックのスピードを向上させることによって、企業は市場の変化に迅速に対応し、競争力を維持・強化できるようになります。これまで時間を要していた業務の最適化が進むことで、柔軟性の高い経営が可能となります。したがって、市場ニーズに対する適応力が向上し、事業の持続的な成長につながる環境が整います。

② 新たなサービス・製品を生み出す力の強化

AIは、企業の業務効率化だけでなく、新しい価値の創出にも大きな影響を与えます。データを活用し、新たな市場機会を特定することが容易になり、従来の方法では発見できなかった可能性を見いだし、そこから迅速に事業化できるようになります。また、AIの活用により、これまで時間とコストを要していた開発プロセスが効率化され、新しいアイデアを実現するスピードが向上します。競争の激しい市場において、企業が成長を続けるためには、既存事業の最適化だけでなく、新たな事業創出が不可欠ですが、AIを活用することで実現可能になるのです。

③ 業務リソースの拡張—人材依存からAIリソースの活用へ

企業の成長は、従来、「人材の確保と育成」に大きく依存していました。しかし、AIの活用が進むことで、業務のスケールを拡張するための新たな選択肢が生まれています。AIを適切に活用することによって、リソースの制約を超え、組織全体の生産性を向上させることが可能になります。人材に依存する業務モデルから、AIを組み込んだ柔軟な業務モデルへと移行することで、人材がより高度な業務へ集中することが促進され、企業の成長の可能性を広げます。

(2)AI戦略が企業の命運を分ける

いまやAIは単なる効率化ツールではなく、企業の競争力の根幹を担う戦略資産となりつつあります。AIシフトがもたらす競争優位の構造変化と、その本質を捉えた戦略の重要性について論じます。

① AIシフトが競争のルールを変える―AIを活用した企業が築く新たな競争優位性

AIを経営の中核に据えた企業は、競争環境そのものを変革する力を持ちます。AIを活用することで、業務プロセスの最適化が進み、競争優位性が飛躍的に向上するからです。
企業がAI活用を進める状況下においては、AI活用のスピードと柔軟性が企業間競争の決定的な要素となります。AIシフトが進んだ企業は、迅速な意思決定と効率的な業務運営を実現し、競争市場において継続的な優位性を確立していきます。

一方で、AIシフトが進んだ企業と遅れた企業との格差は急速に拡大します。AIの継続的な学習と最適化により、先行企業の競争力は時間とともに強化され、後発企業との差は指数関数的に広がる可能性があります。競争環境の変化に適応できない企業は、市場の中で存在感を失い、事業の成長機会が大きな制約を受けることになります。

② AI戦略の失敗は、単なる効率化の機会損失ではない

AI戦略を誤ることは、単なる「業務効率化のチャンスを逃す」ことではなく、競争市場における長期的なポジションを失うリスクを抱えることを意味します。

AIの導入を戦略的に進めない企業は、短期的な業務改善はできたとしても、将来的な市場競争の中で取り残される可能性が高くなります。AI活用を前提とした企業変革が進む中で、戦略の誤りが致命的な影響を及ぼすことを理解し、単なる技術活用ではなく、経営全体の視点からAI戦略を構築することが必要です。

③ 企業の競争力の源泉としてAI戦略を描く

企業はAIを戦略的に活用することによって、「生産性向上」を実現するだけでなく、競争のルールを変えて新たな価値を創造する主体となることができます。また、AIを活用することで、短サイクルでの改善、イノベーションの加速、リソースの拡張といった競争優位性を獲得することができます。一方で、AIシフトに対応しない企業は、市場の変化についていくことができず、成長が鈍化する可能性が高まります。

このように、AI戦略は単なる業務効率化の手段ではなく、企業の競争力を決定づける経営戦略の中心となるべきものです。企業が今後の市場競争を勝ち抜くためには、AIを活用した新たな成長モデルを描き、経営の中核にAIを組み込んだ戦略を構築することが不可欠です。

2. KPI設定の重要性—なぜROICを基準にすべきか?

多くの企業がAIの導入成果を測る際に、「売上増加」や「コスト削減」などの単純な指標を用います。しかし、これはAIの本質的な価値を正しく評価することを阻む大きな落とし穴です。

なぜならば、AI導入による業務最適化が進んだとしても、その効果がすぐに売上に反映されるわけではなく、短期的な指標ではAIの貢献度を測ることが難しくなるからです。また、人件費削減によるコストカットが実現したとしても、それが必ずしも企業の競争力向上につながるとは限りません。むしろ、AI活用の本質は業務プロセスの再構築や意思決定の高度化にあり、単純な数値では測れない影響を企業に与える可能性が高いのです。

そのため、AI導入の真の価値を正しく評価するためには、ROIC(投下資本利益率)のような指標を用いることが不可欠です。ROICを活用することで、売上が一時的に減少した場合でも、AIによる業務最適化やプロセス改善が進み、最終的に投資効率が向上しているかどうかを判断できます。さらに、AIは単なるコスト削減手段ではなく、組織の変革や新たなビジネスモデルの創出にも貢献するため、こうした長期的な影響を評価できる統一指標を用いることが有効になります。

KPIを誤れば、AIの真価を見誤るだけでなく、戦略の方向性そのものを誤るリスクも高まります。企業がAI戦略を成功させるためには、短期的な業績評価にとどまらず、AIが企業の競争力や資本効率の向上にどのように寄与しているのかを正しく測定し、必要に応じて軌道修正を繰り返し行っていくことが不可欠なのです。

3. テクノロジーに左右されないアーキテクチャ設計―データこそが企業の競争力の源泉となる

AI技術の進化は著しく、企業の競争環境もそれに伴い大きく変化しています。例えば、ChatGPTが圧倒的な影響力を持っていたLLM(大規模言語モデル)の領域でも、DeepSeekなどの新たなモデルが登場し、技術競争は日々激化しています。このように、現在の最先端技術も数年後には陳腐化する可能性があるため、短期的な技術選定に依存するアーキテクチャ設計は、企業の持続的な競争力を損なうリスクを伴います。

AI戦略の一環としてアーキテクチャ方針を議論する際、「技術の変化が激しい中で、中長期的な視点で設計することは困難なのではないか」といった疑問の声が上がることもあります。確かにAI技術の変化は予測が難しく、新しいツールやモデルが次々と登場する状況では、どの技術に投資すべきかの判断が難しくなるでしょう。しかし、このような変化を前提とし、それに左右されないアーキテクチャを設計することこそが重要です。特定のAI技術に依存せずに、将来どのような技術が登場しても柔軟に対応できる基盤を整えることで、持続可能な競争優位性を築くことができます。

アーキテクチャを設計するうえで最も重視すべきは、「データは変化せずに企業の競争力の源泉となる」という視点です。AI技術は進化しても、企業が蓄積したデータは資産として残り続け、競争優位の本質を形成するからです。したがって、企業はAI活用を前提として、データマネジメントを中心に据えたアーキテクチャ方針を固めるべきです。AI活用が進む中で、企業活動で発生するすべてのデータを何らかの形で収集・管理する仕組みが必要ですが、単にデータを収集するだけでなく、AIが学習しやすく、活用しやすい形で整理することが求められます。データの意味付けや関係性を整理することで、企業の知見や経験が反映され、それが他社との差別化要因となり、独自の競争力を生むことにつながります。

このようなデータ中心のアーキテクチャを構築することで、企業はAI技術の進化に適応しながら、持続的な競争力を確立することができます。重要なのは、AIを活用するためのデータ環境を整えることが、AIそのもの以上に企業の競争力を左右するという認識を持つことです。データを戦略資産と捉え、変化に適応することが可能なアーキテクチャを構築することによって初めて、企業は長期的にAIの恩恵を最大化できるのです。

AI戦略が企業の未来を決める

AIの進化は企業の競争環境を根本から変え始めています。これに伴い従来は「人材の確保」や「設備投資」に依存していた企業の成長の軸は、AIシフトが進むことで、「AIリソースの活用」へと移行しつつあります。
AIを経営の中核に据えた企業は、単なる業務効率化にとどまらず、新たな価値創造や競争優位の確立を加速しています。AIシフトは、市場競争のルールそのものを変え、早期に取り組んだ企業ほど大きなリードを得ることになります。

一方で、AIシフトが遅れた企業は、指数関数的に広がる競争格差に直面します。AIは継続的に学習・最適化されるため、先行企業と後発企業の間には短期間で埋めることが難しい差が生じるのです。また、AIシフトが進むことで「業務リソースの拡張」が可能となり、人材確保に依存せずに業務処理能力を理論的には無限に拡大できるようになります。結果として、AIシフトに成功した企業はより付加価値の高い業務に集中し、競争力を一層高めることができます。

こうした変化を踏まえると、AI戦略は企業の未来を決定づける経営戦略そのものです。AIを戦略的に活用し、企業の成長モデルを根本から見直すことにより、次世代の競争を勝ち抜くことができます。

今こそ、AI戦略の新時代を見据え、企業の未来を描くべきときです。

Ridgelinezが支援できること

Ridgelinezでは、AIを単なる技術導入にとどめず、企業の中長期的な成長を見据えた「経営戦略としてのAI戦略」策定を支援しています。社内外の情報を踏まえ、ビジネスとテクノロジーの両面から多角的に検討を行い、クライアント固有の課題や強みに即した戦略を共創します。
AI戦略策定のプロセスでは、以下のフェーズを段階的に支援します。

  • 現状把握とインプット整理:社内の取り組み状況の把握に加え、業界動向や技術トレンドなどの外部情報の網羅的な整理によって、戦略の土台を構築します。
  • AI活用の全体構想の策定:AIの活用方針や重点ユースケースを明確にし、経営ビジョンと整合する中長期の方向性を策定します。
  • 実行計画・KPIの設計:翌年度以降の具体的な施策案を検討し、関係部門との調整を踏まえて、組織全体で推進可能な実行計画を策定します。

図1 AI戦略策定のアプローチ

図2 AI戦略策定フェーズのスケジュール例

また、戦略策定後の実行フェーズを見据え、以下の「サービスメニュー」に示すような支援メニューも提供しています。
これらの支援を通じて、AI戦略の策定から実行・定着までを一貫して伴走し、企業の競争優位の源泉となるAI活用を実現します。

サービスメニュー

  • AIアセスメント、POC実行支援
  • 業務実装支援・定着化・教育支援
  • AI-Readyなデータマネジメント設計
  • 柔軟性あるAIアーキテクチャの設計
  • AI CoE(センター・オブ・エクセレンス)の立ち上げ支援