なぜKDDIはシステム刷新を「組織変革」へと昇華できたのか―システムモダナイゼーションを超えたKDDI情報システム本部の挑戦―
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2020年代に入り、多くの日本企業がレガシーシステムの刷新問題に直面した。KDDI情報システム本部もまた、モバイル事業を支える基幹システムの利用限界を迎えていた。しかし、同本部が選択したのは、単なるシステムの延命措置ではなかった。それは、システム刷新をテコに、IT担当者の存在意義を問い直し、「管理する組織」から「創り出す組織」へと生まれ変わるための抜本的な変革だった。構想策定から4年にわたり、AI活用や内製化推進までを一貫して伴走し続けるRidgelinezとの対話から、KDDI情報システム本部のリアルな変革の実践知を解き明かす。
システムの刷新は、組織変革の好機
――最初に、Ridgelinezとのプロジェクトが始動した当時について伺います。2020年頃、KDDI情報システム本部ではどのような課題感を抱えていたのでしょうか。
増田氏(KDDI):われわれは2000年の3社合併(DDI、KDD、IDO)以降、急速に拡大する通信事業を支えるために、20数年にわたって多くのシステムを構築してきました。当時は、いかに早くシステムを立ち上げ、事業成長に貢献できるかが最優先事項でした。
しかし2020年頃より、私たちは2つの大きな課題に直面することになりました。1つは、システムの利用限界です。長年積み上げてきた多くのシステム群が、ハードウェアの保守サポート終了(EOSL)を迎える時期に来たのです。
もう1つとして、私がより深刻に受け止めたのは、IT担当者の存在価値の“揺らぎ”という組織・人に関する課題でした。
情報システム本部にはシステム戦略策定やシステム要件定義といった重要な役割があるものの、実際には社内調整やベンダーコントロールが業務の中心となり、社員はスキル向上に十分な時間を取れていませんでした。その状況が続くようでは、社員のモチベーションや定着率が低下してしまう懸念がありました。
システムの宿命であるEOSL対応と、組織の宿命である社員の働きがいの回復。この2つの難題を前にしたとき、私たちは単にシステムをリプレースするのではなく、進化したクラウドやAI技術を取り込み、システム開発の内製化を中心とした組織へと舵を切ることで、IT担当者のスキルと働きがいを向上させようと決断しました。

自走する中でスキルとモチベーションが高まる
――その複合的な課題に挑む変革パートナーとして、Ridgelinezが参画することになった経緯を教えてください。当時、RidgelinezはKDDIの課題をどのように分析していたのでしょうか。
水谷(Ridgelinez):2022年の初期提案の際、われわれはまず通信業界全体が直面している課題として、いかに新しい価値を創出し、レジリエント(強靭)な事業体質へ転換できるかが鍵だと捉えていました。
そのうえで、KDDI様の現状を分析したところ、基幹システムの複雑な構成が俊敏な変化を阻害しているのではないかという仮説を持ちました。
この複雑さを解消するためには、クラウドの活用や「AI-Ready」なシステム構築といった技術的なアプローチが不可欠です。しかし、それ以上に重要だと考えたのが「人・組織の変革」です。システムだけを新しくしても、それを使いこなし、進化させ続けるケイパビリティがなければ、変革は定着しません。そのため、私たちは「将来的な基幹システムのあるべき姿」と「人の変化」をセットにしたご提案をさせていただきました。
――多くのコンサルティングファームがある中で、KDDI情報システム本部がRidgelinezを選んだ決め手は何だったのでしょうか。
増田氏(KDDI):一番大きかったのは、私たちの「自律」を促してくれるパートナーだと感じられた点です。
われわれが求めていたのは、きれいな戦略を描いて「これが正解です」と提示してくれるコンサルタントではありませんでした。それでは、いつまでたってもわれわれの実力は上がらないからです。
Ridgelinezは、「伴走支援」と「共創」というスタンスを明確に示してくれました。われわれに足りない部分を補いつつも、一緒になって議論し、方向性を決めていく。このプロセスこそが、当社の社員のスキルやモチベーションの向上につながり、将来的な資産になると確信しました。
また、提案の内容は非常に包括的でした。単なる基幹システム刷新案にとどまらず、データ活用の促進やデジタル人材の育成といった、組織全体の変革まで見据えたものだったのです。クラウドやAIといった先端テクノロジーへの深い知見を持ちながら、それを構想だけでなく実装まで一貫して支援できる点も、高く評価しました。
水谷(Ridgelinez):増田さんがおっしゃる通り、われわれは「答え」を提示するのではなく、KDDIの皆さんが自ら課題に向き合い、解決策を創り出していけるよう支援することを強く意識していました。それが結果として、後の内製化やAI活用といった現場主導の動きにつながっていったのだと思います。
変革の連鎖――モダナイゼーションから「内製化」「AI活用」へ
――プロジェクトは2年目(2023年度)に入り、大きくスコープを広げていきます。基幹システム刷新に加え、「内製化」や「生成AI活用」へとテーマが拡大した背景には、どのような意図があったのでしょうか。
増田氏(KDDI):単にシステムを置き換えるだけで終わらせたくなかったのです。
システムの利用限界への対応は1つのきっかけに過ぎません。本質的な課題は、組織の活性化や、IT部門としていかに価値を創出するかという点にあります。
そこでわれわれは、進化する「クラウド」「AI」「SaaS」といった手段を組み合わせることで、仕事の仕方そのものを変えることにしました。今回のシステムリプレースを機に、外部任せにするのではなく、「自分たちで調査し、自分たちで決める」プロセスを重視したのです。
さらに言えば、内製化によって培ったアセットや人材を、将来的にはグループ会社や外部企業にも提供できるレベルまで引き上げたいという視点もありました。
――Ridgelinezは、このスコープの広がりにどう伴走したのですか。
水谷(Ridgelinez):内製化については、それを支える人材の定義や育成、リテンション(定着)といった領域で支援をさせていただきました。
一方で、もう1つの大きなテーマである「生成AI活用」については、実は現場の切実なニーズから始まったものです。
2023年、われわれは現場の課題をヒアリングし、それをいくつかの論点に整理しました。その中から、生成AIで解決できそうな課題として、「ヘルプデスク業務における仕様書探索の効率化」と「複雑なシステムにおける変更影響範囲の見極め」の2つをピックアップし、取り組みを開始したのです。

意識を変えたのは「自ら創る体験」
――現場発のAI活用の動きから、KDDI情報システム本部独自の生成AIサービス「RAISE(レイズ)」が生まれたと伺っています。これは組織にどのような変化をもたらしましたか。
増田氏(KDDI):RAISEは、若手社員たちが中心となってクラウドとAIを駆使し、自ら設計・開発した生成AIサービスです。システム仕様を学習させることで、問い合わせ対応や影響範囲調査の時間を短縮し、生産性向上に大きく貢献しています。
しかし、それ以上に大きかったのは社員の「行動変容」です。
すでにAIをよく使っていた社員は単に「使う」だけから、自ら業務プロセスに組み込み、新しい仕組みを「創る」といった、より尖った活動へシフトし始めました。また、AIをあまり使っていなかったメンバーたちも、同僚が創ったものを見て「知り・使う」という変化が生まれました。自分たちの手で業務を変えられるという手応えが、組織の活性化と内製スキルの向上に直結しています。
――その「創る文化」を組織全体に広げるために、どのような仕掛けを行ったのでしょうか。
水谷(Ridgelinez):生成AIの利用率が一時低迷した時期があったのですが、その打開策として「ライトニングトーク」の実施を支援しました。これは、情報システム本部のメンバーが自らの活用アイデアを数分で発表し合うボトムアップのイベントです。
ライトニングトークには延べ約600人が参加し、熱気ある場となりました。同僚が話す等身大の事例は、参加者に「これなら自分にもできる」という気づきや勇気を与え、現場の活性化に大きな効果をもたらしました。
また、こうした活動が盛り上がるのに伴い、経営層から「システム開発の品質管理」や「業務委託契約のあり方」といった、ガバナンスに関わる高度なAI活用の相談が寄せられるようになっています。これは、情報システム本部のAI活用が単なる試行の域を超え、全社的なアセットとして認知され始めた証拠だと言えます。
――プロジェクトのスタートから4年。これまでの取り組みを振り返り、改めてパートナーとしてのRidgelinezをどう評価されていますか。
増田氏(KDDI):高く評価している点は大きく3つあります。
1つ目は、経営層への提案力です。モダナイゼーションの方向性を決める際、経営層を納得させるための有効なファクトと見識を提示していただいたことが、プロジェクト推進の大きな力になりました。
2つ目は、「真因」へのアプローチです。課題解決において、表面的な対策ではなく、常に「なぜそうなっているのか」という真因を深掘りする姿勢で一緒に取り組んでいただきました。
そして3つ目は、組織変革に向けた「空気作り」です。
トップダウン型組織から脱却し、現場からのニーズをマネジメント層が支援する組織へ変わろうとする中で、先ほどのライトニングトークのような場作りを通じて、現場の活動を組織のアセットへと昇華させる支援をしていただきました。
正解のない問いに共に向き合い、答えを模索する姿勢を何より信頼しています。
「共創」で日本のDXをリードする存在へ
――最後に、今後の展望をお聞かせください。KDDI情報システム本部として、どのような未来を描いているのでしょうか。
増田氏(KDDI):今後は、社内だけでなく社外にも通用する競争力を付けていきたいと考えています。
具体的には、RAISEのような仕組みをスケールさせ、外販も含めた展開を目指すこと。そして、内製化のさらなる深化です。
これからの開発では、コーディングや設計といったタスクはAIが担うことになるでしょう。人間が担うべきは、上流工程である戦略策定や要件定義、あるいはAIのアウトプットが適正・適切かどうかを判断する「フィルター」の役割です。社員がそうした付加価値の高い領域に注力できるよう、人材育成やルール整備を進めていきます。
もちろん、われわれ1社だけでできることには限界があります。様々なステークホルダーや外部パートナー、ベンチャー企業とも連携し、「共創」していくことが不可欠です。より早く、確実にこの未来を実現していくために、今後ともRidgelinezの伴走を期待します。
――Ridgelinezとしての抱負をお願いします。
水谷(Ridgelinez):まず実行パートナーとして、基幹システムのモダナイゼーションという困難なプロジェクトを最後までやり遂げる覚悟です。
そして、KDDI情報システム本部が蓄積した知見やノウハウは、間違いなく日本のDXを牽引するモデルになります。このモデルを、KDDIグループ全体、さらには日本の大手企業へと展開していく支援をさせていただきたい。
KDDIが日本のDXの「CoE(センター・オブ・エクセレンス)」となる未来を、共に切り拓いていきたいと強く願っています。

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