COLUMN
2023/08/24

日産自動車とRidgelinezが“ワンチーム”で挑んだIS/IT部門業務変革-「De2Ops」アプローチでのDX実践

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「グローバルIS/ITは、日産自動車のグローバルビジネスに、DX(デジタルトランスフォーメーション)を適用していく役割を担う。そのためには、まずわれわれ自身が、自分たちの仕事を“トランスフォーメーション”することにチャレンジし、そのノウハウやナレッジを蓄積すべきだと考えた」

そう話すのは、日産自動車グローバルIS/IT部門の能丸実氏だ。

日産自動車グローバルIS/ITでは、従来のプロジェクトとは進め方が大きく異なるDXプロジェクトをRidgelinezとともに実践し、そのノウハウの獲得に挑んだ。両社が“ワンチーム”で取り組んだプロジェクトは、スタートから約3か月という短期間で大きな成果を生み出しており、その成果を、より大きな価値へとつなげていくフェーズへ進みつつある。

今回、日産自動車グローバルIS/IT部門で、プロジェクトオーナーを務めた能丸実氏、現場でのプロジェクト進行をリードした藤堂勝家氏、Ridgelinezで責任者を務めた島田裕士、アーキテクチャ構想や構築の実行支援を担当した大久保知洋が、本プロジェクトの概要と成功要因を振り返った。

“DXの実践”を目指した「IS/ITトランスフォームプログラム」

-現在、日産自動車で進めておられるDXのビジョンについてご説明ください。

能丸 自動車業界は大変革の時代を迎えています。日産自動車としても、その変革期を勝ち残っていくための取り組みを進めてきました。「Nissan NEXT」と呼ばれる、2020年に発表した事業構造改革プログラムです。

事業構造改革を進めるうえで、デジタル技術やデータの活用は必須です。われわれグローバルIS/IT部門では、それを着実に推進し「Nissan NEXT」を支えていくために、中期戦略プログラム「Nissan DIGITAL NEXT」に取り組んできました。この取り組みの中で注力したのが、「データドリブン」でビジネスを変革していく方法論の実践として位置づけていた「IS/ITトランスフォーメーションプログラム」です。

これは、IS/IT部門の仕事を「データドリブン」で変えていこうという取り組みです。われわれ自身がやれていないことを、われわれの先導でグローバルビジネスに適用していくことはできません。まず、自分たちでやってみて、失敗も含めたノウハウやナレッジを蓄積することにチャレンジする必要があると思っていました。

-「IS/ITトランスフォーメーションプログラム」を、Ridgelinezと進めることになった経緯をお聞かせください。

能丸 DXの前段階として、アナログな作業をデジタル化する「デジタイゼーション」、デジタル化した情報をベースにビジネスプロセスを変えていく「デジタライゼーション」というステップがあります。正直なところ「デジタライゼーション」までであれば、外部の助けを借りずとも「自分たちでやれる」という自負がありました。ところが、最終的な「DX」は、まさに「トランスフォーメーション」です。これまでのやり方の延長ではなく、あらゆるものをドラスティックに変えていく必要があります。その領域にどのように取り組めばいいのかについては、完全に手探りの状態でした。

そうした時に、富士通グループの中で変革創出企業として「Ridgelinez」が立ち上がったことを聞きました。これは、われわれにとってグッドニュースでした。

能丸 実 氏 日産自動車株式会社 IS Transformation Lead

従来型プロジェクトへの問題意識から生まれた「De2Ops」のアプローチ

-Ridgelinezでは、こうした日産自動車側の思いを受けて、どのような提案をしたのでしょうか。

島田 能丸さんからは「IS/ITのDXを実現したい(DX for IS/IT)」「DXの原体験をIS/ITのメンバーにさせたい」「実践的にやりたい」という思いを伺いました。そこで、我々の社内における実践事例をご紹介したところ、「それと同じようなやり方でIS/ITの業務を変えられないだろうか」と関心を持っていただけました。

大久保 私は、前職で数多くのプロジェクトに携わってきました。そこで感じていた問題意識としては、最初のステップで「As-Is」と「To-Be」の整理、分析に多くの時間を費やしすぎてしまうこと、そこまでやったら「後はよろしく」と、SIerにバトンを渡してしまうということがありました。「DXの時代に、本当にそのスピード感、断絶したプロセスで大丈夫なのか?」と感じていたのです。

今回のプロジェクトでは、そうした課題感への回答となるようなアプローチでチャレンジしたいと思いました。それが「De2Ops」(Design+Development+Operations)です。

「De2Ops」では、最初の段階から、社内にあるデータを起点として、その周囲でデザイン(構想)、デベロップメント(開発)、オペレーション(運用)を一体で回していきます。これにより、「デザイン」と「開発・運用」の断絶を避けることを狙います。そのため、まず「デザイン」の段階で、UIやデータ分析方法、運用フローなどを想定した、実際に動くPoCプロダクト(プロトタイプ)を作り、OKであれば、どんどん拡張していくという進め方をします。

図1 「De2Ops」アプローチ概念図

能丸 「De2Ops」について伺ったとき、データを中心に置き、そこを起点に全体の仕組みを多面的に作っていくというアプローチに感心しました。このやり方であれば、試してみる価値はありそうだと感じました。

大久保 知洋 Ridgelinez株式会社 Senior Manager

決裁業務を3か月で変革-“ワンチーム”での取り組みが成功のカギ

-プロジェクトの初期にスコープとした業務と、実際のプロジェクトのタイムラインをご説明ください。

能丸 「IS/ITトランスフォーメーションプログラム」で、当時、喫緊に変えたいと思っていたのが、「意思決定」および「予算執行」に属する「決裁業務」でした。

日産では、ITに関わる調達を行う際に、その案件内容のバリデーションをIS/IT管理部門と経理部門が行います。このプロセスが、長い運用の中で、煩雑で時間がかかるものになってしまっていました。それを“データドリブン”で改革したいと考えていました。

図2 「De2Ops」による業務の改善アプローチ

藤堂 スケジュールとしては、Ridgelinezによるヒアリングから約3か月という短時間で、プロトタイプができ、社内に展開・運用することができました。休暇期間を挟んでいたので、実質は2か月半程度で稼働したことになると思います。ツールに関しては、ワークフロー構築ツールをはじめとする、社内で使われていたものを組み合わせて実現しており、結果的に非常に迅速に、実際に運用できるものが出来上がりました。このスピード感には、正直驚きました。

大久保 Ridgelinezでも、業務変革に有用なツール類については常にリサーチしているのですが、われわれが「ベストプラクティス」だと思うものを、すでに日産様内でアセットとして利用しておられたことは、変革をドライブする要素が整っていたということであり、スピード感を向上するうえでも大切な要素の1つでした。

藤堂 1つ懸念していたのは、Ridgelinezがものすごいスピード感でプロジェクトを進めていく中、われわれの側が、それについていけないのではないかという点でした。しかし、このプロジェクト自体が自分たちのシステムと業務をモダンなものに変革しようというところからスタートしていたので、その点で、メンバーからも多くの期待と協力を得ました。具体的なアドバイスや支援もあり、うまく乗り越えることができたと思っています。

藤堂 勝家 氏 日産自動車株式会社 課長代理

能丸 今回のプロジェクトがうまく進んだ1つの要因に、「De2Ops」という新しいアプローチにあたり、「オペレーションプロセス」を包含したプロトタイプを見せながらデザインを進めていった点があると思います。現場は、自分たちの業務についてはよく理解しています。だからこそ、プロトタイプで「オペレーションプロセスがこうなる」という体験をしたことで、結果的に現場のアイデアを触発することにつながったのだと思います。

大久保 スピード感が求められるDXのプロジェクトは、お客様側が、いかに「やる気」になってくれるかが成否を左右します。今回の場合は、ユーザー側にことあるごとにチームを前進させるような言動を示していただけたことが、成功要因の1つでした。

能丸 このプロジェクトについては、Ridgelinezと日産自動車が、文字どおりの「ワンチーム」として取り組めたと感じています。「データ」を中心に置き、周辺については両社の視点で、一緒にやっていきましょうという方針が明確だったため、こちらとしても動きやすかった。それは「De2Ops」というアプローチが正しいことの証明でもあると思います。

-プロジェクトのここまでの成果について、どう評価されていますか。

藤堂 定量的な部分では、決裁プロセスのリードタイム短縮が挙げられます。このプロセスでは、過去にどのような申請があり、どのように処理されたかを全体で共有することも重要です。以前は、それが各チーム内で完結していたのですが、今はその情報がデータとして、より広く共有され、可視化できるようになりました。これによって、各申請者の計画の質が上がり、再提案や修正などにかかっていた時間も削減されています。この取り組み全体を通じて、前年度と比べ約28%、リードタイムが短縮されています。

図3 全体アーキテクチャイメージ

能丸 今、この仕組みのスコープを拡大し、さらに完成度を上げていこうとしています。それができれば「リードタイムの削減」以上の大幅な計画品質や意思決定品質向上の価値が生まれるはずです。今回のプロジェクトの大目標である「IS/IT業務のトランスフォーメーション」が実現し、新たな業務の進め方を実践できるようになれば、それはそのまま、われわれの新しい価値になります。

未来の日産のビジネスをデジタルの力で変えていく、そのドライバーであるわれわれとしては、その新しい価値を通じて実際に次々とソリューションを提供し、日産のDXを促進していきたいと思っています。

「DXの推進役」としての実践経験を全社に展開

-今回の成果を、今後、どのように拡大、展開していこうと考えておられますか。

能丸 今回のプロジェクトについては、すでに目に見える成果が出ています。本来のプロジェクトの概念であれば、いったんクロージングとなるのでしょうが、DXではそういうものはありません。

「De2Ops」には、アジャイルなアプローチを通じて次々と価値を作り上げていこうという思想がベースにあります。われわれとしても「DX」は、何かを作って「完成」ではなく、継続的に「改革」を重ねていくことだと捉えています。今回のプロジェクトと同じようなアプローチ、かつ、より広いエリアで、ビジネスに変革を起こし続けていきたいと思っています。

今回の「IS/ITトランスフォーメーションプログラム」は、われわれにとって「DX推進役としての原体験」でもありました。この成功体験から得たナレッジを、ビジネス領域にもどんどん拡大していきたい。それぞれの部門がやってきた「個別最適」の取り組みを、いかに「全体最適」を視野にまとめていくかということにも挑戦していきたいですね。全社的な展開においては、われわれの成功体験を、富士通グループとしてきちんとご理解いただいて、効果的なアプローチをとっていってもらえることを期待しています。

島田 裕士 Ridgelinez株式会社 Director

島田 日産様のような大きな会社全体の変革をご支援していくにあたっては、富士通グループで一丸となって当たらなければいけない部分が、やはり多いと思います。また、富士通自身にも「これまでのサービスモデルを変えていく」というミッションがあり、その先導役をRidgelinezが担っている側面があります。RidgelinezはDXのX(変革)に重きを置いています。変革に力を注ぐというのは、システムを導入すればよいという価値観からの大きな変化点です。変革を実現するには、今、何を変えなければいけないのか、本質的に求められる変革とは何かを突き詰めることが必要であり、それを深掘りするには変革を体現するお客様のことを追求しなければいけません。日産様とRidgelinezが“ワンチーム”の実践から得たナレッジや変革の価値観を富士通にも還元し、グループ全体の変革にも貢献していきたいと思います。

(敬称略:左から) 島田 裕士(Ridgelinez株式会社 Director)、能丸 実(日産自動車株式会社 IS Transformation Lead)、大久保 知洋(Ridgelinez株式会社 Senior Manager)、藤堂 勝家(日産自動車株式会社 課長代理)

プロジェクトメンバー

  • 能丸 実 氏

    日産自動車株式会社

    IS Transformation Lead

  • 藤堂 勝家 氏

    日産自動車株式会社 課長代理

  • 島田 裕士

    Ridgelinez株式会社

    Director

  • 大久保 知洋

    Ridgelinez株式会社

    Senior Manager

※所属・役職は掲載時点のものです。

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