COLUMN
2022/09/27

迅速なDX導入で物流クライシスを乗り切る―コア業務のデジタル化がカギ―

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はじめに

現在の物流業界は、深刻な人手不足や要求されるサービスレベルの高まりに加え、COVID-19感染症拡大といった予測困難な変化への対応など物流クライシスと呼ばれるほどの危機的状況となっており、これまで以上にサステナブルでレジリエントな物流への変革が求められている。

本コラムでは、物流業界で顕在化している人手不足への対応、CO2排出量削減などの環境負荷低減、そして予測困難な社会経済環境を前提とした将来の課題を見据え、今後取り組むべき物流DX(デジタルトランスフォーメーション)のポイントとして、物流業務のコア領域におけるデジタル化の必要性と各領域の取り組みの方向性について、以下3点を紹介する。

(1)2024年問題に対処するためのトランスポーテーション
(2)庫内オペレーションの省人化・自動化ソリューション
(3)物流情報を一元的に可視化しコントロールするロジスティクスマネジメント

これらについて論ずる前に、まず、物流をとりまく現状について、再度確認しておきたい。

物流を取り巻く環境と物流事業者の現状

物流を支える労働力は現在、ECや個人間売買の拡大による物流需要の増加に対して慢性的な不足状態となっている。それは人口減と高齢化、時間外労働規制、他業界より厳しい労働条件に起因するものである。一方で、荷主からは時間指定やトレーサビリティ、納品時の付帯作業など多様で高品質なサービスを求められ、さらに近年ではCO2排出量削減の社会的要請も強まるなど、物流事業者は厳しい状況に置かれている。

これらの環境変化に対して、人に頼った従来型の現場改善だけでは限界が来ることは明らかであるため、IT基盤やシステム整備によるオペレーションの可視化・効率化、自動化設備導入による省人化・省力化、データを起点にした意思決定を行うデータドリブン経営など、企業の戦略にも物流DXが盛り込まれるようになってきた。

DXには段階があり、デジタイゼーション(情報のデジタル化)、デジタライゼーション(業務プロセスのデジタル化)、デジタルトランスフォーメーション(デジタル化を基にしたビジネスモデルや組織の行動様式の変革)の順に高度化されていくが、物流業界の現在地は第一段階であるデジタイゼーションの前後に位置し、人の経験や暗黙知によるアナログ業務を主とした企業が多いのが実情である。実際、総務省による2021年の業種別のDX取り組み状況調査において、運輸業は約83%がDXの取り組みを実施していないと回答しており、業種別で下から4番目の順位であった(図1参照) 。

図1.業種別DX取り組み状況

(出所:総務省(2021)「デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究」[1] P42を基にRidgelinezにて作成)

物流業界のDXが進まない要因の一つに、経営層の物流に対する優先度の低さが挙げられる。これまで物流部門/機能はコストセンターとしての位置づけであり、研究開発、製造、営業などの領域と比較して積極的に投資されてこなかった。企業の一部門/機能としての物流だけでなく、物流企業/3PL(Third Party Logistics)企業にとっても相対する荷主の物流部門がアナログであるため、物流事業者のみでDXを進めていくことは困難である。ただし、昨今の人手不足やCOVID-19、環境負荷低減の必要性などが相まって、ロジスティクスがビジネスの生命線や競争力強化の源泉であるという認識が広まり、変革の機運は高まっている。

もう一つの要因は物流現場力の高さである。現場力の高さが遅れの原因とは皮肉な話であるが、これまでも高レベルのサービスやコスト低減への要求に対して優れた現場力や人的対応で応え、海外と比較しても日本はきめ細やかで柔軟な物流を実現してきた。そのためにシステム導入による標準化や自動化の必要に迫られず、システムがあっても個別最適のカスタマイズが進み、結果的にデータ化やそれを統合的に扱う知見が蓄積されてこなかった。しかし、昨今の構造的問題は現場頼みの改善で対応できる範疇を大きく超えており、これまでの成功体験や強みが逆に変革の阻害要因となってしまっている。

ようやくDX推進に舵を切っても、具体的にどのような姿を目指してどのように進めていくべきかを試行錯誤している企業が多い。比較的着手しやすい事務処理のような定型業務の効率化など、流行りのシステムやサービスを五月雨式に導入してみたり、輸配送や倉庫作業に画一的なパッケージの仕組みを導入したりするものの、品質や生産性、収益性がむしろ低下し、結果的に十分に使用されないまま元のアナログ業務に戻ってしまうパターンが多く見られた。また、最新のDX事例を基にPoC(実証実験)を繰り返すだけで、いつまでも実装に至らないケースも多い。

それでは、具体的に、どのようにDXを推進していけばよいのだろうか?

物流DX推進のポイント

DX実現には前章で示した第一段階のデジタイゼーションから進める必要があるが、その中でも「自社にとっての物流コア領域のデジタル化にいち早く着手するべき」ということを強調したい。

物流のコア領域とは何か?それはサービス品質やコスト競争力など付加価値に直結する業務であり、企業ごとに強弱はあるものの、機能で言えば「輸送(トランスポーテ―ション)」「荷役(庫内オペレーション)」「情報管理」の3つとなる。

物流業では、物量(業務量)を自社で厳密にコントロールできないことが多く、不確定な環境の中で、効率や利益だけでなく、法規制、人の感情を含む多要素が複雑に絡み合う状況を、人が瞬発的/総合的に判断している。

各パラメータの優先順位は企業や状況によって異なり、こういったコア業務の領域を網羅的にカバーするシステムや設備のパッケージは現時点で世の中に存在しないと言ってよい。したがって、この領域をデジタル化/自動化していくには、複数の仕組みを適切に組み合わせたり、新たな機能を構築・連携したりする必要があるため、相応の労力と知見を要することは避けられないと心得たい。以下にそれぞれのコア領域について、冒頭でも記した変革の方向性3点を記載する。

(1)2024年問題に対処するためのトランスポーテーション

EC市場拡大に伴う小口配送化の影響で貨物自動車の積載率が約40%まで低下しているうえに、日本では2024年4月にはトラックドライバーの時間外労働の上限が960時間/年となる、いわゆる2024年問題が近づいており、ドライバー不足が喫緊の課題となっている(出所:国土交通省.”最近の物流政策について”[2]、厚生労働省.”時間外労働の上限規制わかりやすい解説”[3] )。

ドライバー不足は社会や業界の構造的要因が大きく、根本解決には企業間連携や行政レベルの施策を視野に入れる必要があるが、その前提になるのは、社外と連携するための社内物流情報のデータ化である。データ化の実現により、さらなる社内リソースの有効活用も進められる。多くの事業者では顧客や物量が変化しているのに自社の物流拠点や体制が何年も見直されていない、ベテランの配車担当しか最適な配送計画やコース設計ができない、配車や運行/労務管理に膨大な工数をかけているといった状況にあるため、さらに効率を高め、必要車両台数や人員を最小化する余地は残されている。

取り組みの方向性としては、既存技術のシステムやITツールをベースに、付加的に先進的な物流DX技術を組み合わせていくべきだ。既存の仕組みであるTMS(Transport Management System)(図2参照) を導入し、クラウド型デジタコやドライバー端末と連携することで、車両動態や輸送KPI(コスト・品質・生産性・安全など)を可視化でき、PDCAの高速化が期待できる。

図2.TMS(Transport Management System)  

(出所:富士通株式会社.”輸配送システムソリューション”[4]を基にRidgelinezにて要約)

さらにTMSで生成収集したデータをインプットにして、Ridgelinezでも提供するAIや数理解析などのテクノロジーを取り入れることで、環境変化に対してタイムリーに検証し最適化が図れるようになる。具体的には、需要の動向と将来予測、配送先の分布状況などから効率的な物流拠点の位置を決める拠点立地シミュレーションや、荷量や道路事情を加味した配送ルートシミュレーションなどが挙げられる。(図3参照)。仕分け作業用の物流拠点を新設するべきかどうかを検討していた食品メーカーの卸売・販売を担う事業者の事例では、これらのシミュレーションで、拠点新設によって現状比で輸配送コストが約6%削減、CO2排出量が約12%削減でき、拠点の設置と維持コストを差し引いても効果があることを数字で明確化でき、実現に至った。

図3.拠点立地シミュレーション(出所:Ridgelinez作成)

また、3PL事業者に物流業務を委託している事業会社にも、自社で配車シミュレーションやBI(Business Intelligence)ツールでの分析を行うことをお勧めする。これはベンダーマネジメント力の強化と自社の物流ケイパビリティ蓄積を促進し、双方の成長にもつなげられるため、非常に効果的である。

(2)庫内オペレーションの省人化・自動化ソリューション

庫内作業者の不足に起因する物流停滞リスクや、近年の賃金上昇による物流コスト増加、庫内の労働環境の悪さなど、様々な問題を解消する方策となり得るのが、システム化+IoT・ロボティクスによる省人化/自動化ソリューションである。

省人化/自動化の進め方については、まずアセスメントを行い、ボトルネックとなるプロセスを自動化技術の視点で先に特定し、「将来目指すべき自動化はどのような姿か」を定めることが重要である。将来の目指す姿を考えずに特定プロセスに省人化用の設備を導入すると、部分最適となり、次のステップの自動化移行時の足かせになりかねない。また、例えば委託するベンダー選定を急ぐあまりベンダー提供機器の制約にとらわれるようなソリューション設計は避けるべきである。

重要なのは、目指す姿からのバックキャストにより、前後プロセスとの連携や拡張性を確保しながら設備を導入して自動化の基礎を作り、徐々に難易度の高い技術のトライアルを実施しながら自動化範囲を拡大、最終的には庫内全体に行き渡る自動化オペレーションを実現する、という手順を意識することである。設備やIoTデバイスから生成されるデジタルデータは、さらなる庫内オペレーション改善や後工程にあたる輸配送の効率化につながっていくはずである。(図4参照)

図4.バックキャスティングによる省人化/自動化の進め方(出所:Ridgelinez作成)

物流センターへの省人化/自動化ソリューション導入には専門知識を要し、時には複数社の異なるマテハン機器(MHE)のインテグレーションも必要となるため、社内に不足する当領域のケイパビリティを補うLIer(ロジスティクス・システムインテグレーター)の参画も視野に入れて計画するとよい。過去に支援した素材部品メーカーの事例では、特定のマテハンベンダー主導で進めていた物流センター構築計画に対して、LIerが第三者的な立場で最適なオペレーションと機器を再評価したところ、ランニングコストが当初計画比で約20%減となった。このように、当該領域の専門知識を基にした全体最適視点で仕様策定・品質管理・進捗管理を行うことで、より大きな効率化が実現され、将来目指す自動化にもスムーズに移行することができる。(図5参照)

図5.工程別適用候補技術の選定とインテグレーション(出所:Ridgelinez作成)

(3)物流情報を一元的に可視化しコントロールするロジスティクスマネジメント

長期にわたり拠点やサービス単位で別々に効率化が進められた結果、多くの物流システムは拠点や荷主ごとの個別設計で縦割りの部分最適になっており、それぞれの範囲内で可視化やトレーサビリティを進めるにとどまっている。

トランスポーテーションにおける車両の動態情報や、庫内オペレーションにおける作業実績など、デジタル機器の導入によりデータを取得し、各プロセスで生産性などのKPIを監視し現場改善に役立てている企業はあるだろう。しかし、プロセス全体または複数拠点間や輸送手段の連携状況まで把握する全体最適につながる可視化を実現している事例は多くない。これを実現するためには、統合物流管理システムであるLMS(Logistics Management System)を活用し、データを一元化してデータ分析基盤に蓄積していくことが望ましい。情報を統合して分析できる状態にすることが、物流効率の最大化など、あらゆる観点で企業価値を高める基礎となる。(図6参照)

図6.LMS(Logistics Management System)(出所:Ridgelinez作成)

例えば財務指標として重要な物流収支についても、現状では、拠点トータルの集計やみなし数字、かつ1か月を超える期間での大まかな集計による管理が一般化している。月ごとや四半期ごとの制度会計結果で収支を把握して、後追いする形で対策を検討したり、各オペレーションコストや間接費配賦が曖昧なまま過去の経験則で見積りを行ったりしているために、各荷主やサービス単位の収支実態が赤字になっているといった事態があらゆる企業で起こっている。主要な計画やオペレーション情報をデジタル的に捕捉し、同期性を高めて一元的に可視化することにより、そういった慣習から脱却できるようになる。

LMSによってパフォーマンスの可視化範囲が複数の拠点やサービスに拡大され、収支情報や在庫情報、庫内作業実績、輸配送情報などが一元的に管理可能となる。物流ネットワーク全体の情報を連携して比較したり意味合いを抽出したりすることで、より具体的な判断材料をこれまでにない速度で提供することができ、マネジメント層の意思決定や現場の業務改善に大きく貢献する強力な武器となる。(図7参照)

また個別システムを統合管理するLMSを配置することで社外や他部門とのデータ連携の窓口をLMSに一本化させることができる。これにより、柔軟性や機動性の観点からも、サプライチェーン間の緊密な連携や企業の壁を超えた共同物流といった、より高いレベルの物流スキームを構築する効果的な施策となり得るのである。

図7.ロジスティクスマネジメントによる経営判断の迅速化(出所:Ridgelinez作成)

終わりに

社会におけるロジスティクスの重要性の高まりとDXの振興で、物流業務の変革もいよいよ本格的に取り組まれる時代となってきた。最終的に物流が目指すところは、一企業個社にとどまらず企業間、業界、社会全体で仕組みや情報が連携されてシームレスにモノが流れることだが、まだアナログ業務が多い現状は長い道のりの一歩目のステージといったところだ。DXの号令の下で一足飛びに高度なソリューションを導入しようとしても、結局、足元ではアナログの情報インプットを迫られて、想定した効果が得られなかったり、道半ばで頓挫したりするプロジェクトは枚挙にいとまがない。冒頭で示したとおり、DXには段階があり、物流業務の中核を担うトランスポーテ―ションや庫内オペレーションの情報やプロセスのデジタル化ステップを避けては通れないのである。

この壁を乗り越えるためには、物流のコア領域をデジタル化するという経営層の確固たる決意と、中長期的なロードマップ策定が重要となる。コア領域には人による複雑な判断やノウハウがあるために、デジタル化に必要なコストや時間に対して効果がすぐに見えにくく泥臭い本質的な取り組みは後回しにされがちである。もちろんロードマップ検討時には、現場の推進力を加速・継続させるために、成果が現れやすい定型業務のデジタル化も並行して組み込んでおく必要がある。物流は元々労働集約的であるため、物流DXを軌道に乗せるカギとなるのは、必要最小限の人員で回している現場業務やシステム部門の負荷を軽減しつつ、コア業務のデジタル化にかけるリソース配分を増やしていくというロードマップを策定し、社内全体で合意できるかどうかである。

今後、物流業界でもAI活用が当たり前になる未来を想定すると、早期にコアなオペレーションデータをリアルタイムで取得しビッグデータとして蓄積していく企業と、目先の効率や利益のためにギリギリまで人手のオペレーションを主としていた企業との間にあったわずか数年のデジタル化着手タイミングの差が、データのフライホイール(弾み車)効果によって競争力の差となり指数関数的に広がっていく。この物流クライシスを機に、場当たり的な対処でなく将来にわたってサステナブルでレジリエントな物流を構築し、競争力を高めたい企業は、すぐにでもここに着手するべきである。

コア領域のデジタル化を実現した後に初めて、自社のデータを基にさらにSaaSなどを活用した機能強化と効率化、共同物流やサプライチェーン間連携といった全体最適の実現など、企業の持続力・競争力向上に加えて社会課題の解決が見えてくるのである。

Ridgelinezは、変革への志を持つ「チェンジリーダー」とともに、未来を変え、変革を創る変革創出企業である。「人」を起点にすべての変革を発想し、新たな価値を創出し変革を実現する。戦略策定からビジネスモデル・ソリューション設計、業務プロセス・アーキテクチャ設計、オペレーションシステム開発、戦略実行、エコシステム構築・運用、サステナビリティに関する経営課題の変革(Sustainability Transformation)まで、変革プロセスを最初から最後まで支援するコンサルティングサービスを提供している。

物流領域では、物流現場で様々な実践経験を積んだ物流コンサルタントが、今回ご紹介したアプローチを含む物流DXの基礎確立に向けたお客様の変革に伴走する。さらに独自技術であるAIアルゴリズムによる輸配送や拠点立地、CO2削減などの環境負荷低減シミュレーションや、グループの専門技術者による物流現場のエンジニアリングサービスなども活用して、より高度な変革へ結びつけることが可能である。物流業務におけるデジタルトランスフォーメーションに向けて、皆さまのお力になることができれば幸いである。

引用文献・参考資料

  1. 総務省(2021).”デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究”.
  2. 国土交通省.”最近の物流政策について”.
  3. 厚生労働省.”時間外労働の上限規制わかりやすい解説”.
  4. 富士通株式会社.” 輸配送システムソリューション”.

執筆者

  • 並木 英明

    Manager

  • 長尾 健辰

    Consultant

※所属・役職は掲載時点のものです。

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