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日本の製造業におけるデジタル戦略

#ものづくり

 

COVID-19感染症拡大をはじめ予測困難な変化にさらされている現在、製造業には不確実性に対応し変革する取り組みが求められている。本コラムでは、不確実性に対応するためのDXケイパビリティや、それを獲得しデジタル化をスピードアップするためのOODAサイクルについてご紹介し、さらに製造業のデジタル化のポイントとして設計/製造間連携とサプライチェーン再構築について論じる。不確実性に対応するにはデジタル化を避けて通ることはできず、戦略的な取り組みが必要になる。

1. 不確実性の高まり

日本の製造業における強みとは何か

従来、日本の製造業における強みは品質だった。現場における絶え間なき「カイゼン」(注1)や、設計と製造が一体となった「すり合わせ」(注2)などを実施してきたが、現在もこれらが強みとして活かされているであろうか。これまで強みと考えてきたものが、環境の変化を受け、競合他社との差別化要素ではなくなってきているのではないだろうか。

デジタル化の進行やオープン化、グローバル化、労働人口の減少などの環境変化に加えて、急激な気候変化や自然災害、COVID-19感染症の拡大など予測困難な変化が次々に起きている。このような不確実性の高い状況下において、事前に分析や予測を行うことは困難であるが、すでに新しい常態(ニューノーマル)として製造業にも大きな影響を及ぼしつつあり、対応と変革に向けた取り組みが急務となっている。

2. 高まる不確実性への対応

2.1 DXケイパビリティ

不確実性の高い世界では、環境変化に対応するため組織内外の経営資源を再結合・再構成する経営者や組織の能力(DXケイパビリティ)が競争力の源泉となる。DXケイパビリティは下記4つの能力に分類できる。

図1 DXケイパビリティ

2.2 OODAサイクルとデジタル化による対応のスピードアップ

DXケイパビリティを獲得するためにはOODAサイクルの導入が効果的である。
不確実性の高い世界においては今後の状況を予測することが困難になるため、環境の変化や顧客ニーズの変化、ビジネスモデルの変化に対し、ぎりぎりまで引き付けて変化の方向性を見極め、臨機応変に軌道修正して対応できる能力を高める必要がある。そのためには、変化のパターンに対する網羅性とスピードが必要になる。網羅性を高めるには様々なリソースにアクセスして全方位で情報収集を行い、そこからノイズ除去し、正確にニーズを捉えた情報に分離し、小さな変化の兆しも見逃さないようにする。また、スピードにおいては、アジャイル型の取り組みが必要になる。

例えば、近年注目されているOODAサイクルでは、O(Observe:観察)→O(Orient:状況判断)→D(Decide:意思決定)→A(Act:実行)により、現場を観察し、方向付け、判断を行い、実行することで臨機応変な対応を行うことができる。また、OODAを繰り返しながら調整を加えていくことができるようになれば、適切な決断を下す能力が高まり、変化に対して柔軟な対応が可能になる。製造業においてもQCD(Quality:品質・Cost:コスト・Delivery:納期)向上を目的としたOODAサイクルにおいて、デジタル化によりアウトプットレベルや提供品質の高度化、意思決定スピードを早めることができる。

さらにフィジカル空間における製品や製造設備のデータをIoT技術でサイバー空間上に投影したデジタルツイン技術を活用すれば、製品に直接手を加えずサイバー空間上で変更の善し悪しを事前に確認することによって課題を抽出し、短期間で製品を市場投入することができるようになる。またデータ活用により、製造設備の故障予測など設備の効率的な運用やサプライチェーンにおける需要変化を早期に判断することも可能になる。

不確実性に対応して変革していくには、従来から実施している現場のすり合わせ力だけに依存するやり方では立ち行かなくなるため、デジタル化の促進により情報処理スピードを早め、事前検証やノウハウ共有、過去トラ(トラブル)やフィールドでの実績の反映などデータを駆使(つなげて活用)することが重要となる。DXケイパビリティの獲得、そして高度化により、時間や工数の削減だけでなく圧倒的な高品質化、そして変化に対する迅速な対応力が身につき、企業の競争力が強化される。

3. 製造業におけるデジタル化のポイント

製造業は、市場の多様化やマスカスタマイゼーション(注3)、ロングテール市場(注4)等により複雑化する一方、他社製品/サービスとの差異化が求められている。これらの課題を解決するため、デジタル化による設計・製造力強化やサプライチェーン再構築が必要である。さらにRidgelinezの調査によると、国内製造業企業におけるエンジニアリングチェーンの課題を「設計/製造部門の連携」と回答した企業が47%を占めていることが分かった。

図2 エンジニアリングチェーンの課題(注5)

3.1 設計/製造間連携

日本の製造業は、従来から継続しているカイゼン活動等により強い製造力を持っているが、品質や社会要請に対応したさらに強い製品や提供価値を今後生み出すためには、設計段階で製品品質を担保するDFX(Design For X)が有効になる。

以下に主なDFXの具体例を述べる。

  • DFM(Design For Manufacturing)
    製造工程における省人化やQCD改善に向けて、製造作業における制約条件を洗出し、製品開発の初期段階から加工や成型など製造性を設計段階から考慮
  • DFT(Design For Test)
    製品をテストしやすくするために製品内部に付加機能を設計段階から実装、また、外部から観測性を上げるように設計段階から考慮
  • DFE(Design For Environment)
    省エネルギーでの動作や動作中に有害物質を排出しないなど、環境問題に対して設計段階から考慮
  • DFR(Design For Recycle)
    リサイクルの分野においても、消費者ニーズに合わせたカスタム部品の再資源化や原料化、熱としての再利用など、再資源化を考慮し、かつ非破壊での解体性を設計段階から考慮
  • DFS(Design for Service)
    納入製品の挙動トレースやシステムの自己診断やフィードバック、さらに保守の容易化を設計段階から考慮

このように検討すべき課題をフロントローディング(注6)で考慮することにより、設計段階の製品品質作り込みや市場投入までのリードタイム短縮を実現することができる。また、DFXを実現するためには、プロセス策定とデジタル化が必要になる。プロセス策定において重要な点は、どの段階でどのような製造性検証を行うのか明確にしておくこと、デジタル化においては、設計~製造~保全など製品ライフサイクルに関わる各工程をBOM(Bill Of Material:部品表)やBOP(Bill Of Process:工程表)をはじめとするBO“X”(Bill Of X)を軸として情報を一気通貫でつなげる共通データ基盤を整備しておくことである。

図3 BO“X”を軸とした共通データ基盤

3.2 サプライチェーン再構築

1990年代から続くサプライチェーンは、多様化の局面で岐路を迎えている。データ粒度の詳細化、リアルタイム化の実現により判断の細分化が可能となり、さらに現場データから傾向を見ることでマクロ的な経営判断を行うことができるようになってきた。

また、競合他社との差異化のためには製品市場動向、生産状況、サプライヤー情報等を徹底的にデジタル化し、需要予測から調達~製造~物流が機敏に反応できるコネクテッドサプライチェーンの実現が必要になる。さらにコントロールタワーによるサプライチェーンの統合管理では、End to Endで統合管理することで経営の意思決定をリアルタイム化かつ高速化できることから、サプライチェーン全体の最適オペレーションを実現することができる。

運輸の面ではEC市場の伸長に伴う物流需要量の増加や、物流の担い手不足等による物流供給量の減少により、物流の需給構造は物流供給優位へと変化しつつある。これまではノンコアの位置付けだった製造業の物流機能が、ビジネス環境の変化により付加価値向上/競争力強化の源泉として影響力を強めているため、いかに物流機能/物流能力を強化して強い競争力を獲得するか、が再注目され始めている。

図4 コントロールタワー機能

4. 総括

以上、述べてきたように不確実性への対応にはデジタル化を避けて通ることはできない。また、その粒度や活用方法について、事前に戦略的な視点で検討/構築しておくことが重要となる。DXケイパビリティを構成する感知、捕捉、可視化、制御の各能力をデジタル化によって獲得し、変化に対して柔軟に、かつ迅速に対応できる力を手に入れて企業の競争力強化につなげていくことが、不確実性の高い時代における成功のカギとなる。


 

(注1)カイゼン
製造業の生産現場で作業者を中心に行う見直し活動・戦略。

(注2)すり合わせ
いくつかの案や意見を、突き合わせて調整すること。

(注3)マスカスタマイゼーション
コンピュータを利用した柔軟な製造システムで特注品を製造すること。低コストの大量生産プロセスと柔軟なパーソナライゼーションを組み合わせた多品種少量生産のシステム。

(注4)ロングテール
インターネットを用いた物品販売の手法、概念。販売機会の少ないニッチな商品でもアイテム数を幅広く取り揃え、対象顧客の総数を増やすことで、総体としての売上を大きくするもの。

(注5) Ridgelinezが2020年9月に実施した調査結果
回答者は売上1000億以上の自動車・輸送用機械、自動車部品、情報通信機器企業の研究開発、設計、生産管理・技術、品質管理・保証部門に所属する部長・課長クラスの389名。

(注6)フロントローディング
製品開発プロセスの初期工程にリソースを投じ、後工程で行われていた作業を前倒しして進めること。モノづくり全体プロセスの上流部分に集中することにより全体最適を目指す開発手法。