COLUMN
2023/03/17

VXによる「モノづくりの未来」―製造業が抱える課題、その本質と解決策を探る―(3)

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第3回:「バーチャル」トランスフォーメーションによって製造業の課題をどう解決するか

本コラムシリーズの第2回では、まず「物理的なモノ・業務」の管理にデジタル技術を活用して、物流のさらなる高度化を目指すフィジカルインターネットのコンセプトに簡単に触れた。そうした中で、製造業がサステナブルに変革を続けていくためのアプローチとして、4つの象限に整理しながら、変革の道筋を説明し、そこに活用される技術要素などを紹介した。

第3回は、バーチャル技術を用い、場所や空間の違いを感じさせずに業務の高度化を実現するバーチャルトランスフォーメーション(VX)の例や、その取り組みを前進させるために重要な観点について解説していく。

地方の生産拠点改革こそがVXの真のターゲット

本コラムシリーズでは、ここまで製造業界のデジタル化のあり方について各種のデータや情報を読み解き、あるべきアプローチを検討してきた。

ここで改めて言及したいのは、製造業における地方拠点の存在である。製造業では、大都市の本社の会議室でモノを作っているわけではない。日本の製造業企業の多くは地方都市に製造・生産拠点を構えて事業を展開しつつ、地域の雇用の受け皿ともなっている。

日本の産業構造の特徴として、地方都市に事業所の数が非常に多いことが挙げられる。特に製造業は日本各地に拠点が分布しており、地方の製造現場をいかに強化していくかという課題は、個々の企業だけでなく、国にとっても重要といえる。

実際に、総務省「平成26年情報センサス・基礎調査」をもとに中小企業庁がまとめたデータによると、情報・通信産業の場合、大都市の中小事業者数は郡部の8倍であるのに対し、逆に製造業では郡部の中小企業が大都市の1.3倍という結果が表れている。中・大規模事業者に絞ってみると、製造業は郡部の事業者数が大都市の1.9倍となり、さらにその数値は増加する。デジタルによる地方拠点の生産性向上がいかに喫緊の課題であるかがわかるだろう。(※1)

第2回の記事では、バーチャルトランスフォーメーション(VX)の考え方が、場所を問わない先進的な業務環境を実現し、さらに企業間のコラボレーションの基盤にも重要であるという点に触れた。このVXは、日本経済の実質的な主役である地方拠点を高度化し、日本の製造業界全体の生産性を底上げするものとして大きな期待が寄せられている。

(※1)中小企業庁「小規模企業白書2016」P155、P157
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H28/PDF/shokibo/03sHakusyo_part1_chap4_web.pdf

富士通におけるVXの実践事例

生産現場における具体的なVXの事例として、富士通の小山工場のケースを紹介する。

電子機器を製造している小山工場では生産現場や工場の遠隔監視にローカル5Gを導入しているほか、高精度のカメラを作業者の状況をモニタリングしている。また、MR(複合現実)のデバイスを使った作業トレーニングも行っているため、有識者が現場作業者の手元を映像で見ながらアドバイスを実施している。これにより、有識者が現地を訪問することなく作業指示を行えるだけでなく、複数の遠隔拠点の管理を一人の管理者が行える点で大きなメリットが生まれている。

【図1】富士通における生産現場/工場の遠隔管理・監視の事例

(出所:富士通プレスリリース)

さらに、この事例の特徴として、5Gを活用した高精度映像測位の技術によって自動搬送車の精密誘導にも取り組んでいる点が挙げられる。位置制御技術が進展したことによって、こうした活用事例も順次登場している。

その他、VXを用いた実践事例としては、以下が挙げられる。

  • メタバース:VRミーティング、VRトレーニング、VRデザインレビュー、バーチャルショールームなど
  • デジタルツイン:デジタル試作、デジタル実験、デジタル工程設計など

メタバースの中であればフィジカル世界や従来のWEBシステムを使ったミーティングやトレーニング以上に心理的安全性を確保し、ミーティングやトレーニングを実施することが可能となる。

デジタルツインの中でも3DCADで表現したモデルを組み上げ、デジタル試作や実験、生産現場の工程設計を進めることが可能となる。

以下は富士通における製品ラインライフサイクル支援の例である。

【図2】富士通における製造ラインライフサイクル支援(リアルとバーチャル)

(出所:富士通 Digital Solution事業本部ものづくりソリューション事業部資料)

3DCADモデルとPLCの制御情報により、デジタル上でタクトタイムやロボットの動きなどを検証し、リアルでの手戻りを削減することができている。

Ridgelinezは事例に示すように、VX戦略を立てるだけでなく、富士通とコラボして現場への実践・展開まで対応することが可能である。

まとめ――VXが後押しする、「人」起点での問題解決

昨今の製造業の課題解決に有効なVXは、物理的な制約を排除する様々な個々の技術はもちろんのこと、それを運用する人の取り組みも重要になる。

フィジカルな制約を排除していった先に、さらなる変革の可能性をもたらすのがメタバース技術である。メタバースというと、3D空間内の自分のアバターを操作するものというイメージを抱く人もいるかもしれないが、ここではより広義の意味で捉えている。

メタバース技術を用いて、バーチャル空間とフィジカル空間が融合したワークスタイルを実現することは、製造業企業にとっては未来へ向かって踏み出す新たな一歩でもある。遠隔監視は働き方を改革するだけでなく、従業員のライフスタイルさえも変える力を持っている。この変化は広く社会へ波及していき、ビジネスモデル変革の加速、技術継承の問題の解決、利益率の改善に結びつくと期待できる。

また繰り返しになるが、特に地方拠点はこの潜在的なニーズが高く、メタバース活用による新しいワークスタイルはデジタル化による効率化と人材補充問題の解決を一挙に実現するアプローチとして期待されている。

Ridgelinezは、「人を起点とする変革の実現」と「バーチャル技術を活用した、製造現場の管理の高度化」を目指す日本の製造業企業に対して、ストラテジーからシステムの実装までEnd to Endで支援を展開している。バーチャルトランスフォーメーションに興味を持たれた場合は、ぜひお声がけいただきたい。

執筆者

  • 瀬谷 匠洋

    Director

  • 齋木 雅弘

    Senior Manager

※所属・役職は掲載時点のものです。

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