コラム

ホームコラム未来を拓く分散型エネルギービジネスの可能性 ―業界を超えた連携と挑戦―

未来を拓く分散型エネルギービジネスの可能性 ―業界を超えた連携と挑戦―

2023年11月08日

脱炭素化やカーボンニュートラルの必要性を背景に、分散型エネルギーに対する期待が世界的に高まり、従来では考えられなかったプレーヤーがビジネスへの参入を検討するなど、業界を超えた取り組みが加速している。

本コラムでは、分散型エネルギーの普及を後押しするデジタルテクノロジーの進展や電力市場・制度等の動向を整理したうえ、どのような業界のプレーヤーが当該分野のビジネスに関心を持っているのか、ビジネスとして成立するのか、今後の可能性について解説する。

 

目次

  1. 分散型エネルギーに対する期待の高まり
  2. 分散型エネルギービジネスに係る各社の取り組み
  3. 主な課題と今後のビジネスの可能性について
  4. 総括

 

1.分散型エネルギーに対する期待の高まり

日本政府は、2021年に策定したエネルギー政策の指針である「第6次エネルギー基本計画」において、2030年までのエネルギー供給構成や省エネルギー目標、再生可能エネルギーの導入拡大などを定めている。中でも再生可能エネルギーの導入拡大が最重要課題とされており、その普及促進策が盛り込まれている。再生可能エネルギーについては、2030年までにエネルギー供給量の約36~38%を占めることを目指しており、特に、太陽光発電と風力発電の導入拡大が重要視されている。
民間企業では、日本におけるエネルギー政策や昨今のカーボンニュートラル、レジリエンス等に対する関心の高まりを背景に、太陽光などの再生可能エネルギーをはじめ蓄電池、EV等の分散型エネルギーリソースの導入拡大が進められている。
今回は、分散型エネルギービジネスの可能性を考察していくうえで、下記3点を中心に分散型エネルギーに対する期待を概観する。
(1)電力市場・制度の加速化
(2)機関投資家の動向
(3)デジタルテクノロジーの進展

【図1】日本の電源構成

(出所:資源エネルギー庁公開資料よりRidgelinez作成)

 

(1)電力市場・制度整備の加速化

分散型エネルギービジネスに係る電力制度面における小売全面自由化や法的分離などを踏まえ、卸電力市場、需給調整市場、容量市場等の各種電力市場の整備が進展している。これらの市場整備に伴い、分散型エネルギーリソースを所有する企業の参入が実現してきている。また、2022年からは特定卸供給事業(アグリゲーター)制度、配電事業制度、特定計量制度、FIP(Feed-in Premium)制度(※1)などが開始され、2025年度からは次世代スマートメーターの導入も開始予定など、分散型エネルギーリソースの活用拡大に向けた制度整備が進んでいる。太陽光発電、蓄電池、EV等の充電設備やエネファーム等の給湯設備といった分散型エネルギーは、主にDSO(Distribution System Operator)配電エリアに接続され、その数が年々大きく増加することは容易に想定される。従来の上位系統から下位系統への電気の流れだけでなく、多岐にわたる下位系統から上位系統への電気の流れも顕在化しつつある。この潮流の中で、全体の需給バランス確保だけでなく、下位系統での電圧維持や系統混雑をマネジメントする必要が出てきている。そのために、分散型エネルギーリソースの活用が期待されており、各種電力取引市場や制度形成の進展に伴い、電力の安定供給やカーボンニュートラルの実現に寄与すると考えられる。

【図2】取引市場・制度形成に向けた道程

(出所:「各種公開資料よりRidgelinez作成」)

 

(※1)FIP制度:再エネ発電事業者が卸市場などで売電したとき、その売電価格に対して一定のプレミアム(補助額)を上乗せすることで再エネ導入を促進する制度。

 

(2)機関投資家の動向

世界的に再生可能エネルギーのシェアが伸長する中、機関投資家は気候変動に対する各企業の取り組みに期待を寄せている。ある投資実態調査(※2)によると、2022年度に重視している取り組みテーマの首位は「気候変動」であり、回答したすべての機関投資家が挙げた。また、気候変動関連の株主提案に対する賛否の判断で考慮するポイントとしては、「株主提案に対応することによる企業へのインパクト」が最も多く、次いで、「気候変動に対する方針、目標設定状況の国内外企業との比較」が挙げられた。これらの調査結果から、投資家は企業に対して脱・低炭素化を含む気候関連への取り組みに高い期待を抱いていることがわかる。一方で、企業側は株主提案に対し、他社ベンチマークも踏まえて自社経営への影響を考慮したうえで投資判断を行うという姿勢が窺える。

このような状況下で、企業は気候変動に対する方針や目標設定を明確にし、積極的な取り組みを行うことが求められる。また、分散型エネルギーリソースのシェアが伸長することは、企業の再生可能エネルギー活用を拡大させ、環境負荷の低減やコスト削減につながる可能性がある。このような取り組みは、投資家からの評価を高め、企業価値向上につながるものと考えられる。

(※2)QUICK ESG投資実態調査2022

 

(3)デジタルテクノロジーの進展

分散型エネルギービジネスに係るテクノロジーの活用と電力システムデジタル化の親和性は高いと考える。アグリゲーターを含む需要側が、プロシューマーとして自らのリソースとAI/IoTを活用することで、新たな電力取引ビジネスの担い手となることも考えられる。このプロシューマーモデルは、電力産業が他の産業とつながるための触媒として、イノベーションに貢献する未来も期待される。デジタルデータや先端技術を活用することは、企業の競争力を保つうえで不可欠となっており、電力ネットワークのデジタル化においても例外ではない。電力系統をIoT化し、収集したデータを利活用することで、高度な需給管理が可能となり、安定供給に寄与する。例えば、太陽光発電や蓄電池などの分散型エネルギーリソースをIoTデバイスで接続・制御し、電力網全体の安定化や効率化に貢献することができる。また、電気自動車(EV)や蓄電池など、電源の分散化に役立つ新しいリソースを活用することで、低炭素化(CO2排出量削減)の実現に寄与する。昨今では、V2G(Vehicle to Grid)技術の進展により、電気自動車の蓄電池を電力網に接続し、電力需要が高い時間帯に電力を供給することで、ピーク時の電力需要を効率的にカバーし、化石燃料による発電量を削減することが期待される。分散した電源から余剰電力を集めて販売する新ビジネス(アグリゲーションビジネス等)では、多様で安価な電力供給といった経済効率性の向上への寄与も期待できる。
このように電力ネットワークにおけるデジタル化は、安定供給、環境、経済効率の側面から新たなビジネス創出の機会をもたらすものと考える。

 

2.分散型エネルギービジネスに係る各社の取り組み

(1)分散型エネルギービジネスの外観

分散型エネルギービジネス(DEB:Distributed Energy Business)では、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーや蓄電池等を活用し、発電・蓄電した電力や調整力等を、卸電力市場、需給調整市場、容量市場、非化石価値市場、もしくは、相対取引を通じて需要家に提供することで、対価を得ることになる。
DEBにおける主な売手としては、従来型の中央集中型の大規模発電事業者ではなく、再生可能エネルギー発電事業者のほか、太陽光パネルや蓄電池、エネファームといった分散型エネルギーリソース(DER:Distributed Energy Resources)を保有するリソースプロバイダー(RP)、ならびにDERを束ねる役割を担うリソースアグリゲーター(RA)、および複数のRAを束ねるアグリゲーションコーディネーター(AC)が想定され、仮想発電所(VPP:Virtual Power Plant)としての価値提供を行う。
売手のビジネスを成立させるためには、こうした複数の市場等における取引を最適化していく必要があるとみられる。

【図3】分散型エネルギービジネスのイメージ

(出所:資源エネルギー庁公開資料よりRidgelinez作成)

 

(2)分散型エネルギービジネスの潜在的プレーヤーとその位置づけ

日本における分散型エネルギーに関連する取り組みとしては、これまで様々な企業や団体によって多数の実証事業が行われており、今後の本格的な商用化が期待されている。例えば、一般社団法人 環境共創イニシアティブ(SII)の実証事業( 「バーチャルパワープラント構築実証事業(VPP)」「再生可能エネルギーアグリゲーション実証事業(再エネアグリゲーション)」「分散型エネルギーリソースの更なる活用に向けた実証事業(DERアグリゲーション)」 等)では、資源・エネルギー業界だけでなく、情報・通信・広告業界、輸送機器業界、小売業界といった様々な業界から企業や団体が参加しており、DEBに対する企業の関心の高さが見て取れる。

実証事業における各プレーヤーは「基盤整備事業」「アグリゲーション事業」「リソース導入事業」等の事業を担当・推進しているとみられる。それぞれの役割としては、「基盤整備事業」はアグリゲーション事業の実証支援ならびに事業課題等の調査・分析、「アグリゲーション事業」は供給力や調整力に関する実証等の実施(AC・RA)、「リソース導入事業」はアグリゲーション事業に必要な設備等の一部導入(RP)が挙げられる。

【図4】環境共創イニシアチブによる実証事業に参加した業種(%)

(出所:一社団法人 環境共創イニシアチブHPの公開情報をベースに作成)

一般社団法人環境共創イニシアチブの各種実証実験のうち、「令和2年度バーチャルパワープラント構築実証事業」「令和4年度再生可能エネルギーアグリゲーション実証事業」「令和4年度分散型エネルギーリソースの更なる活用に向けた実証事業」を対象に算定。図中の「業種分類」は日経バリューサーチにおける業種分類をベースに分類。

 

【図5】実証事業における各プレーヤーの主な位置づけ

(出所:一社団法人 環境共創イニシアチブHPの公開情報をベースに作成)

 

(3)実証事業における収支の算定について

供給力実証の中には、気温の変動等を背景に計画と実績のギャップから生じるインバランス料金が大きくマイナスとなったことから、合計収支もマイナスになったケースがみられる。収益化に向けては、インバランスの発生を最小化する工夫が必要とされるほか、インバランスの発生を見越したうえで、収益性の高い取引を実現するために、市場価格予測の精度を向上することや、価格差の大きい時間断面での取引の必要性が指摘されている。そのほか、需要の予測と実績の乖離や、リソースの容量不足、応答速度の遅延等、技術的な課題についても、今後の改善・解決が期待される。
低圧アグリゲーションに関する検討では、前提を置いたうえで、いくつかのユースケースを設け、ビジネスサイド側の収支を定量的に評価したものもある。この検討では、RAを束ねる役割のACが201,000kWをアグリゲーションした場合、約6億8,392万円のプラス収支が見込め、損益分岐点の規模として25,621~30,160kWという結果となった。一方で、個々のリソースをアグリゲーションするRAに関しては、特にリソースとしてEVを活用した場合、各種費用(RAシステム、計量器、リソース制御端末、等)が収入を上回ったことで、収支がマイナスの結果となっており、ビジネスとして成立する収支を得るためには、政策当局に対する働きかけのほか、各種費用を抑えるとともに、規模を確保することがポイントになってくると考えられる。

【図6】低圧アグリゲーション検討における収支(例)

(出所:「令和4年度 分散型エネルギーリソースの更なる活用に向けた実証事業」における補助事業「東京電力HD_DER活用実証2022」の報告をベースに作成)

 

3.主な課題と今後のビジネスの可能性について

これまで見てきたように、DEBに対する期待は、今後ますます高まっていくとみられ、資源エネルギー業界に限らず、様々な業界から多くの企業がDEBへの参入可能性を探っている。
国の制度や技術的な課題も多く残っており、まだまだ不確実性が高いビジネスとみられる中、DEBへの参入を検討している企業は、補助金を含む政策動向等をタイムリーに把握するとともに、マネタイズに向けたビジネスモデル・財務モデルをデザインしたうえで、状況の変化を踏まえながら、各モデルの精度を高め、その妥当性を継続的に検証していく必要があるだろう。
また、分散型エネルギー市場に参入する各プレーヤーが今後のビジネス可能性を広げていくには、自社の経営資源を最大限活用するほか、他社との戦略的アライアンスや産業界としての政策当局への働きかけを行うことも必要なアプローチとなると考える。

【図7】今後のアプローチの方向性

 

4.総括

ISSB(International Sustainability Standards Board:国際サステナビリティ基準審議会)等に代表される国際的な気候変動施策に加え、昨今の燃料価格高騰/供給不足などの要因に伴う電気代高騰により、分散型エネルギーへの期待はさらに高まっている。市場/制度整備の加速、機関投資家の動向、デジタルテクノロジーの進展も相まって、分散型エネルギービジネスの外観は固まりつつあり、日本でも実証実験にはエコシステムを構成する様々なプレーヤーが参加しているが、現段階では収益性に課題があり、ビジネスとしての不確実性は高い。
しかしながら、世界の未来において分散型エネルギーの社会実装は必須の事項であり、大きな市場が創出されるビジネス機会が想定される。そして、この市場は「分散型」であるために、様々なプレーヤーに機会が存在する。
変化には起こす側と受ける側がある。先行する欧州企業やテスラ等の動向を把握・注視し、自社が参画するエコシステムならではの競争優位性を見出すことが肝要だ。Ridgelinezは、日本における分散型エネルギービジネスの変化を創出し、成長を牽引したいとお考えの皆様をご支援し、ともに実現したいと考えている。

 

執筆者

  • 渡瀬 博文上席執行役員Partner
    Utility, Transportation & Public Services Practice Leader
  • 高橋 芳樹Director
  • 佐野 豊人Director

※所属・役職は掲載時点のものです。