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「CES 2023」レポート 日本企業は危機感と常識をアップデートせよ

2023年02月15日

2023年1月5日~8日に、世界最先端テクノロジーの見本市「CES 2023」が開催された。コロナ禍の影響によるオンライン開催を挟んだため、私自身、今年は3年ぶりの現地参加である。

例年より体感的に日本人の来場者は少なく、また日本メディアでの扱いも少なかった。そのためか、今年のCESに注目する人はさほど多くないようにも思う。

しかし、現地で変化を目の当たりにした私の印象は大きく異なっている。久しぶりであることを差し引いても、3年という年月以上の大きな変化を感じた。特に、日本はあまりにも海外と差をつけられているという現状を痛感した。今回は、CES2023を現地で見聞きした中でとりわけ印象的だった内容を紹介していきたい。

 

目次

  1. メタバースではすでに「現実に存在しない商品」が売れている
  2. CES 2023の最注目企業は中国TCL
  3. CES 2023で見えてきたモビリティ産業の収益構造
  4. 危機感と常識をアップデートせよ

 

メタバースではすでに「現実に存在しない商品」が売れている

これまでのCESでは主に3年後や5年後のものを展示していたが、今年は「すでに販売しているもの」や「今年中に販売するもの」が主体であった。言い換えれば、現在進行形のものを展開するイベントへシフトしたとも言える。景気後退が予想されていることから足元の事業にフォーカスした企業が多かったこと、多くのテクノロジーが実用化の段階を迎えていることが背景として指摘できるだろう。CES 2023のテーマを一言で表すなら「テクノロジーを現実に展開する時代」だ。

そのCES 2023では、6つのキーテクノロジーテーマが提示された。

【図1】CES2023 「テクノロジーを現実に展開する時代」(出所:CES2023資料に筆者追記)

これらのうち今回、まずはメタバースを中心に紹介したい。参加したセッションで頻繁に引用されていたマッキンゼーの昨年レポートによると、メタバースは2030年までに5兆米ドル(約643兆円)の価値まで成長すると予測されている。日常生活で触れる機会がないため、多くの日本人にとって実感は薄いだろう。しかしメタバースは想像よりも近くに来ている。3年後や5年後ではなく、現在進行形だということを以下でお伝えしておきたい。

CES 2023で強く印象に残ったのが、MoT(Metaverse of Things)という概念が示されたことである。つまり、あらゆるものがメタバースの世界に関わってくるのだ。

メタバースの現状とその勢いをよく表していると感じたのは、メタバースのセッションで示された以下の写真にある比較だ。ゲーム版のYouTubeとも呼ばれているロブロックス(Roblox)のマンスリーアクティブユーザー(MAU)数がYouTubeの同数字と比較して1桁違いのところまで来ているのだ。

【図2】ロブロックスのMonthly Active User数(出所:CES2023資料に筆者追記)

私は昨年、Digital Shift Timesへの寄稿記事(2022年3月9日)において、ダイレクトにメタバース世界でのアバターとつながるD2A(Direct To Avatar)の時代が訪れるだろうと指摘した。「よりメタバースになる」「アバターエコノミーが拡大する」「現実に存在しない商品が売れる」といった要旨である。メタバースの世界にいる自分自身のアバターに着せるために、現実に存在しないデジタルの服や靴などを売る市場が広がっていくだろうという予測だ。その中核となる会社はロブロックスだろうと見立てている。

同社のビジネスモデルはCEOいわく「エンタメ×ゲーム×ソーシャル」であり、メタバースでアバター経済を創造しようとしている。

CES 2023のメタバース関連セッションでは、ウォールストリートジャーナル(2022年12月12日)の次の記事タイトルおよび同記事の内容がよく引用されていた。「子供たちはもはやキャッシュは欲しがらない―欲しいのはRobuxだ―」。このRobuxとはロブロックス上の仮想通貨である。

同記事に登場する家庭では、12歳と10歳の女の子がロブロックスに没頭しており、メタバースでゲームや交流をしながら仮想通貨を稼いだり使ったりしている。交流を楽しむと同時に経済的自立を学んでいるのだ。この記事によれば、ロブロックスの1日の利用者6,000万人のうち約半数は13歳未満の子供だという。大人たちがメタバースの用途を見つけようともがいている一方で、子供たちはすでに現在進行形で使っているのだ。

ロブロックスの売上高は過去3年間で6倍に増え、2021年は19億ドルに達した。そのほとんどが仮想通貨Robuxの販売によるものだ。

アバターエコノミーの広がりに、リアルの世界でよく知られる各社が反応している。例えば、ウォルマートはロブロックス上に「ウォルマートランド」を展開した。ラグジュアリーブランドも注目しており、グッチは「GUCCI TOWN」をローンチしている。前述の記事に登場した姉妹は、ロブロックス上でルイ・ヴィトンのハンドバッグとグッチのジャケットを購入。彼女たちが購入したのは5ドル(約680円)相当に満たない商品ではあったが、「実際に存在しないもの」のマーケットはすでに動いているのだ。なお、グッチの販売数量は限定で、価格はダイナミックプライシングで決められている。

この仮想通貨Robux は日本のAmazonでも売られており、4,500 Robuxのギフトカードは6,000円、1Robux=約1.3円だ。ここまでの話は決して海外の話ではなく、日本に住む人々にも関わってくることである。

ちなみに先日、この話をクライアント先の男性にしたところ、9歳の息子さんが学校の友達とロブロックスで遊んでいるという。去年のクリスマスプレゼントはまさにRobuxのギフトカードだったそうだ。

利用者の半数が13歳未満だからだろうか、私自身はロブロックスの面白さをあまり理解できていない。しかし、1日に6000万人が利用しており、そこで経済が成立していることは紛れもない事実だ。2023年の世界における日本のビジネスパーソンに求められているのは、若い人の価値観をわかったような気になるのではなく、「自分は相手のことは理解できていない」と謙虚な成長マインドセットで臨むことではないかと指摘したい。このようにメタバースがすでに現在進行形でここまでのレベルで利用されていることを、正しく認識できている日本人は決して多くないだろう。

さらに付け加えると、今回のCES2023では、複数のスピーカーがメタバースについて、「Web2.0ベースのメタバース」と「Web3.0ベースのメタバース」という使い分けをしていたことを注目した。ロブロックスはWeb 2.0の世界のメタバースであり、大きな成長は後者の下でのものになると予想されているのだ。

 

CES 2023の最注目企業は中国TCL

メタバースの世界を構成する主要ツールの1つにスマートグラスがある。私はMeta社のOculusを持っているため、現在主流となっているスマートグラスの機能や使い勝手は把握している。その上で、今回出展していたブースの中で最も機能性に優れていると感じたのが、TCLのスマートグラスだった。

 TCLは世界トップクラスのシェアを誇る中国のテレビメーカーで、NFLのオフィシャルパートナーでもある。今回の会場では最大級の広さでブースを展開し、非常に幅広い製品やサービスが並んでいた。CES 2023の最注目企業だったと言えよう。

【図3】TCLのブース(出所:CES2023にて筆者撮影)

スマートフォン、タブレット、PC、スマートウォッチといったIT機器を5Gベースで展開していた。テレビメーカーだけあって家電にも強く、スマートホーム対応のデジタルで顧客とつながった冷蔵庫やエアコンなどもあった。

ここで強調したいのはブースの広さではない。主要製品カテゴリーにおいて、CES 2023のベストプライズを複数獲得していたことである。1つひとつが非常に優れているのだ。

TCLのすぐ近くにはパナソニックも出展していた。多くの人々が知るように、同社はBtoCでなくBtoBに軸足を移そうとしていることを誇らしげに強調している。

BtoBであったとしても、その先にはC(消費者)がいるため、BtoB製品やサービスを手がけるとしてもBtoCについての理解が欠かせない。BtoCのエコシステムを大々的に展開しているTCLを横に、パナソニックは本当にB2Bのクライアントに優れた製品やサービスを提供できるのだろうか。

 

CES 2023で見えてきたモビリティ産業の収益構造

モビリティについても紹介したい。日本のメディアが多く取り上げていたのはソニー・ホンダモビリティのEVだが、私の目にはそこまで鮮やかに映らなかった。まずは展示されていた他社のEVと比較してデザインに魅力を感じなかったからだ。

残念に思ったのは見た目だけではない。ソニー・ホンダモビリティが今回発表した自動運転EVは、レベル3(特定条件下での自動運転)にて2026年から供給開始を予定しているものだ。レベル3の自動運転では運転の主体は人でなくシステムとなり、例えば高速道路のような環境であれば運転手はハンドルから手を放してもよい。CES 2023で有力企業においては数少ない「未来」の展示だったと言えよう。

しかし、前述のとおりCES 2023は「テクノロジーを現実に展開する時代」を印象づける内容で、モビリティにおいても現在進行形のものが展開されていた。

ソニーが未来に予定しているのと同じレベル3ベースの自動運転車は、海外ではもう実用段階に入っている。メルセデス・ベンツは、同社のレベル3自動運転EVが欧州に続いてネバダとカリフォルニアでも許認可を受け、米国でも本年からローンチすることを発表した。そして日本経済新聞は1月27日付で「米国初のレベル3、独メルセデスが自動運転車を販売」と発売が開始されたことを伝えた。もはや数年後に自動運転EVを発売することではなく、すでに発売されたことがニュースになるのが2023年の世界なのだ。

【図4】メルセデス・ベンツのブース(出所:CES2023にて筆者撮影)

自動運転EVが間もなく街中を行き交うのに合わせ、会場では周辺ファシリティの展示も目立った。メルセデス・ベンツは、全米でEVバッテリーステーションを今年から展開することも発表している。この同ステーションは従来のガソリンスタンドのように、コンビニなどの機能も備え、次世代地域コミュニティを視野に入れている。なお、EVのバッテリーステーションは、メルセデス・ベンツ以外にも複数社が展示していた。EVシフトの流れは鮮明なのだ。

メルセデス・ベンツのブースでは、手を使って操作する必要がないレベル3の自動運転を前提に、エンタテイメントの世界についても力を入れて紹介していた。ZYNCというソフトウェア会社と組んで開発した車載システムは、すでにコーポレートサイトでも詳細が開示されている。

常識をアップデートしておきたい話題がもう1つある。これまで自動車メーカーとしての存在感が強くなかった国においても、EVが盛り上がりを見せている。例えば、ベトナムの新興EVメーカーであるVINFASTは、今回最も展示台数が多かった。

【図5】VINFASTのブース(出所:CES2023にて筆者撮影)

EVの世界で起きている流れを見ていて想起するのは、スマートフォンの歴史だ。黎明期にはハードウェアメーカーが相次いで参入したが、やがて淘汰され、現在では数えるほどしか残っていない。ハードだけで生き残るのは困難であることを示した。

同じように、ハードとしてのEV車だけを作っていたのでは、数年後には収益を見込めなくなるだろう。そのとき収益が出るのは、OSやプラットフォーム、重要部品などだけだ。ハードで収益化や量産化を実現できるメーカーは少数だろう。

2018年5月の拙書『2022年の次世代自動車産業』では次世代自動車産業における10の選択肢を挙げ、その中で「メーカーはOS・プラットフォーム・エコシステムと同時にハードを支配しない限りは絶対に勝ち残れないだろう」と言及していた。この私の予想は、今まさに現実となりつつある。

 

危機感と常識をアップデートせよ

以上、ここまででCES2023の内容を踏まえながら、MoT(Metaverse of Things)の存在、MAU数がYouTubeの1桁違いにまで成長したロブロックス、子供たちが欲しがる仮想通貨Robux、日本ではほとんど無名であるがB2Cの世界でエコシステムを構築しつつある中国企業TCL、ハードとしてのEVの収益性の将来など、様々なトピックを紹介した。

自分の会社や業界の常識とも比べながら、その常識をアップデートし、危機感を一気に高める機会となれば幸いである。

 

執筆者

  • 田中 道昭立教大学ビジネススクール教授
    Ridgelinez 戦略アドバイザー

※所属・役職は掲載時点のものです