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「伝統産業を変革するDX×新規事業の挑戦」

2020.9.24 THU / 株式会社ユーザベースが主催するH2H(Home to Home)セミナー「伝統産業を変革する『DX × 新規事業』の挑戦」が開催されました。技術力の高いエンジニアを抱えるスタートアップやテクノロジー企業によって大きなデジタルシフトが起きている昨今、伝統企業にとっても、未来をつくるためにDX(デジタルトランスフォーメーション)による企業変革は必至です。そこで今回、富士通グループ100%出資のRidgelinez 株式会社でビジネス企画や業務プロセスデザインに取り組む今井 俊哉氏と、株式会社ミスミグループ本社のID 企業体で製造業向けのオンデマンド自動見積りサービス『meviy ( メヴィー)』を展開する吉田 光伸氏をお招きし、対談形式でセッションを行いました。

 

業界や自社の課題を解決すべく、伝統企業がDXへ乗り出した

酒居:お二方は自社からスピンアウトし独立した会社で、伝統企業の課題を解決する新しいビジネスを展開していますが、自社でどのようなDXの取り組みをされているのか教えていただけますか。

今井氏:Ridgelinez(リッジラインズ)は、富士通グループの100%出資会社です。これまで富士通グループは、ビジネス企画や業務プロセスデザインなどに代表される上流工程に関するご相談をお引き受けできていないという忸怩たる思いがありました。そこで外部から多様な人材を招聘し異なる課題に取り組む中で、さらに富士通グループ全体のDXを進めていこうという考えから、当社の設立に至りました。

Ridgelinezの基本的な考え方は「デジタルテクノロジーがトランスフォーメーションを後押しする」というものです。トランスフォーメーションは、長い歴史の中で守ってきたさまざまな業務プロセスや事業の仕方を根本から変える必要があります。一方で、自社の力だけで生まれ変わるのは非常に窮屈で苦行の連続であることも少なくありません。

そこで企業の変革を創出するために、とるべきアクションや考え方について具体的な手順を示すのが当社のミッションです。

DXという言葉が先行し、とにかくデジタル化をすれば世の中が変わるはずだと思われがちです。しかし、これまで手掛けてきたことと全く違う領域で新規事業を行うのは大きな痛みを伴います。デジタルテクノロジーを使うことで、事業開発につきものの痛みを少しでも和らげることができれば、DXの実効性は高まるのではないかと考えています。

吉田氏:ミスミは1963年の設立から約60年を迎えた製造業のB2B企業で、売上規模は現在約3,000億円ほどです。

当社は業界で初めて機械部品のカタログ販売を行うなどイノベーターとしての側面や、お客さまから「電気、ガス、水道、ミスミ」と言われるほど、ものづくり産業の社会インフラとしての強みも持っています。取り扱う商品点数は約3,100万点を超え、世界最大級の品揃えを有します。

そんな当社が調達の領域でDXを推進し、新事業である『meviy』を立ち上げた背景についてお伝えしたいと思います。

ものづくりには設計、部品調達、製造、販売という4つのバリューチェーンがあります。設計ではCADやCAEなどのソフトウェアを用い、製造はロボティクス、販売はEコマースなど、3つの領域では大きくデジタル化が進んでいます。

ところが調達の領域ではそれほど進化が起きていません。実はいまだにFAXで部品調達や見積りのやり取りを行っています。紙は誰もがわかりやすく見やすい媒体であり、幅広い年齢層で使いやすい。そのような背景からデジタル化が進まず、調達部門がバリューチェーン上のボトルネックとなり、製造業全体の進化が滞る要因の1つとなっています。

例えば、工場で稼働する自動機を製造する場合、約1,500点の部品が必要になります。これらの部品を世界各地から調達して機械の形に組み上げるためには、紙の図面が必要で設計担当が1枚ずつCADなどのソフトウェアを使って描いています。
この作図作業に1枚30分を必要とし計750時間。さらにFAXで図面を送る時間がかかり、その後見積もりが戻ってくるまでに約1週間かかります。そこから製品を制作するまでに約2週間。つまり、一般的な工程では1つの自動機の部品を調達するだけで約4か月かかっていたのです。

この状況を改善するために『meviy』を立ち上げ、2つの革新を進めています。

1つはお客さま側の革新を行うべく、AIによる自動見積もりを実現しました。お客さまが3DCADソフトで描いた設計データをそのままクラウド上にアップロードすると、AIが形状や加工種類を自動で認識し、3秒程で価格と納期を回答します。ここで紙の図面作成と見積り待機の工程がなくなります。
2つ目は製造側の革新として「デジタルものづくり」を実現しています。紙の図面では、工場の熟練工が工作機械を動かすプログラムを一から作る必要がありました。しかし『meviy』では、設計データをもとに工作機械を動かす「NCデータ」というプログラムを自動生成して、工作機械へ転送します。受注と同時製造が可能で、設計データをアップロードするだけで即時見積もり、最短即日での部品製造と出荷が可能です。

このようにお客さま側と製造側、両者の革新を同時に行うことで競争優位性を生み出した結果、現在B2B向けオンデマンド製造サービスの領域でシェアナンバーワン*となっています。(*2018年テクノ・システム・リサーチ調べ)

酒居:これまで困難だった調達分野から紙媒体をなくすという技術革新を、なぜ『meviy』では実現できたのでしょうか?

吉田氏:新規事業を行うにあたり必要な、want(情熱)、must(使命感)、can(実行力)というモチベーションが揃ったからだと思います。

私もこれまでさまざまなプロジェクトに参画し、数多くの失敗を経験してきましたが、何とかして調達という領域をアップデートしたいというwantを長らく持っていました。

ミスミグループはものづくりを支える社会インフラです。業界のリーディングカンパニーとして、お客さまの大変な状況を目の当たりにし、何とかしなければならないという使命感がありました。これが、mustの観点です。

最後のcanが新規事業にとって一番難易度が高く、この事業を成し遂げるためにはミスミグループのケイパビリティだけでは実現できませんでした。そこで、オープンイノベーションの考え方を取り入れ、アメリカやインド、ヨーロッパといった世界中の叡智やテクノロジーを結集して、ここにたどり着きました。
オープンイノベーションを遂行するうえで大事なのは仲間探しです。自分たちが何に困っていて、何を一緒に成し遂げたいのかを明確にし、周りに発信していく。そして少しずつ繋がっていく人的ネットワークを活かしながら、地道に仲間を集めていき、最終的に結集した叡智が自社の「できること」を「強み」に昇華させ、競争優位性を高めていくわけです。

酒居:富士通やミスミのような伝統企業では、新しい変革に対して社内から積極的ではない意見が出るケースもあるのではないでしょうか。そのような場合、お二人はどのように向き合っていらっしゃいますか?

 

スピンアウト型で独立し、意思決定スピードを高める

吉田氏:DXを実現する組織であるために重要なのは、目的となるWhy(なぜこれをやるのか)の部分です。

その核となるのは危機感ではないかと私は思います。ポイントは、本当の危機になる前にいかに危機感を醸成し、全社や組織、チームのベクトルを持っていけるかということです。

またトランスフォーメーションには大きく2つの種類があります。1つはビジネスモデルの変革です。例えば、創業期のNetflix社はDVDの宅配サービスからスタートし、映像のストリーム配信へと変わりました。2つ目は、戦略自体の変革。例えば位置情報やさまざまなテクノロジーを開発してきたGoogle社の自動運転システムは、最先端企業の戦略転換です。

ビジネスモデルや戦略を変革することは自社のアセットを大きく組み替えるので、経営トップのコミットが重要になります。つまり、トップの危機感とコミットをいかに引き出すかが重要だと感じています。

今井氏:私は必然性と客観性が必要だと考えています。

社内でトランスフォーメーションの必然性を納得してもらうためには、変える必然性を組織の中で明らかにし共有することです。企業の中の一部門だけがあり様を変えても、顧客に届くサービスや商品全体が変わるわけではありません。会社における組織の上層部が具体的なビジョンを描くことが必要です。

そのために今変えなければいけない必要性について客観的なデータを用い、それに基づきロジックを導き出したうえで、既存のプロセスを変えていくことが大切です。

昨今データドリブン経営が叫ばれていますが、データを可視化して組織全体を上から下まで同じフレームの中で見ることが肝心です。立場ごとで見ることのできる情報の質や量は異なりますが、基本的には同じフレームワークとロジックに基づいた同質のデータを見ています。

Redgelinezが独立した最大の理由は、意思決定のサイクルを早くすることです。稟議に時間がかかると、その間に優秀なライバル会社が次々と新しいサービスを出してしまいます。

リスクを取ってでも挑戦と失敗を高速でまわし、行動量を増やすことで、早く経験値を高めることができます。システム開発におけるアジャイル開発のように、リーンで小規模に事業を始めながら、良い部分を残し駄目な部分は捨ててドラスティックにビジネスを変えていく。スピード感を持って新規事業の開発と改善を進めるために、あえて富士通グループとは別会社として事業を展開しています。

したがって、私たちはお客様にもスピード感高く動いていただくことをお願いしていますし、メンバーにも途中過程を積極的に共有するように伝えています。

そしてスピードを落とさないため何よりも大切なことは、トップの決断力であり、自分なりの読みやロジックをもとに独自のストーリーを描き、迅速に決断していくことがキーポイントとなります。そして自分の決断を伝える時に、メモを見ながら語ってはいけません。自分の言葉で、自分の頭に入っている数字を使って語ることで、説得力が増し、周りの気持ちも動くのです。決断力には勇気が伴いますが、決断を先送りにしても、それほど結果は変わらないので、まずはやってみて出た結果をもとにPDCAを回した方が良いと思います。

吉田氏:DXという観点もそうですが、新しい事業を立ち上げるのは不確実であり、どれだけ頭で考えても答えが出ないので、スピード感が要になります。

社内の資料作成や稟議といった付加価値が生まれないものを極力省き、価値を出すスピードを速めていくために変える部分は変えるべきだと思います。

酒居:社内の同じ事業内で、新規事業と既存業務のチームが共存する場合、組織体制をどのように整えればよいでしょうか。

今井氏:何ごとも常に長所と短所があると思います。当社のように新規事業チームが完全に独立していると意思決定者がはっきりするので、スピーディに物事を決められます。

富士通グループとしてふさわしい事業か議論すべく本社へエスカレーションされる場合も、意思決定者は少人数なのですばやく判断されます。

このような「出島」型の組織体制のメリットは、ケイパビリティを最大化できる点です。外部の最適な人材を招聘するなどの選択肢を含めて判断できるので、最良のチームを作るというお客さまの真のニーズにも充分に応えられます。

もう1つのメリットは、出島だからこそ本社と良好な協力関係を保つことで、本社が保有している豊富なリソースを活用できる点です。出島としての利点やスピード感を生かしつつ、大企業としてスケール感のあるところは組織と上手くコラボレーションして事業推進に生かせるといいのではないかと思います。

吉田氏:大企業がDXを実現することには大きなインパクトがあります。培ってきたお客様の基盤やエンジニアのリソースは、スタートアップと比べて豊富なので、デジタルの力を生かして新規事業の立ち上げに舵を切った時のインパクトは特に大きいです。

そのとき重要なのは、既存事業と0→1を行う新規事業では使う筋肉が違うことを認識することです。事業の立ち上げフェーズでは、新規事業と既存事業のチームはできるだけ離す。始めのうちは新規事業を行う人間は目立たないところでひたすら価値を作ることに専念することが重要ではないかと思います。
0→1を行う時は企業としても未知の領域です。だからこそ、自社のケイパビリティだけで考えてしまうと物事が進まなくなってしまうので、レバレッジ力を高め、トップ自らが外に目を向け、知の探索と知の深化をはかりながら、両利きの経営をしていく必要があると思います。

 

VUCA時代、時間を創出し部門を越境するDXを実現せよ

酒居:製造業の分野でDXを革新されてきたお二人に、今後日本における製造業について、どのような未来を描かれているのか教えてください。

吉田氏:製造業のポテンシャルが大きいことは間違いありません。GDPの2割を占める基幹産業ですし、世界シェアで6割以上を占める商品が日本企業に約270もあります。これは中国の5倍、アメリカの2倍で国際競争力も非常に強い産業だと思います。

一方で製造業に限らず、1980年代の「Japan as No.1」と言われていた時代は労働力が豊富で、一人あたりの就業時間が長かったことが日本を強くしていたのだと思います。さらにその頃は日本の労働力も安価で、グローバルに戦えました。

これから先さらにVUCAの時代に入り、労働力はマクロで見ても下がっていきます。働き方改革などで戦うための時間が圧倒的に減り、今後より一層減っていく中で、いかに今まで以上の価値を生み出せるかが勝負になると思います。

世の中にはAIやRPAを含め、VUCA時代に時間を創出するさまざまなデジタルツールがあり、『meviy』もその一つです。こうしたツールをフル活用してデジタル武装を整え、人間にしかできない付加価値を作る時間をいかに創出できるかが、これからの時代に重要ではないでしょうか。

酒居:コロナの影響もあり、製造業は必然的にデジタルシフトを迫られたかと思います。今後デジタルシフトはどのように加速していくと思いますか。

吉田氏:ものづくりの現場でも全てリモートで現場改善を始めたり、デジタルのツールを使ってお客さまとオンライン商談を行ったりと進化を遂げました。

コロナ禍で図面印刷は不要というユーザーが増え、デジタル化が推進されたことは大きなマイルストーンなのではないでしょうか。これは製造業がデジタルに着目し、上手に使いこなす契機になったと思っています。

今井氏:これから先、グローバルサプライチェーンの見直しはあらゆる形で起きるでしょう。そこで日本の製造業でこれからチャンスが出てくるのは、パーソナライゼーションだと思います。

CX(カスタマー・エクスペリエンス)的なパーソナライゼーションは、モノをつくるときも必要になってきます。大量生産・大量廃棄というSDGsの真逆をいくような、これまでの製造業の業務プロセスを根底から変えなければいけません。日本の製造業は、その付加価値をスピーディに具体化することで戦える土俵ができるのではないかと思います。

また、越境型のDXを起こすことが重要です。例えば建設業界でも最後は人が働かないと建物が作れません。一方で労働人口は減少しています。業界全体で少なくなったリソースをいかに有効活用し、どのようにワークライフバランスを重視した働き方を整えるのか。それらはロボティクスや多様な形のDXを推進していくことで可能となるでしょう。

その時ポイントとして、関係部署間でデータ連携を進められれば、生産性は大きく変わるのではないかと考えています。

いまやデジタル化に必要なツールは安価に手に入るようになりました。セキュリティ上の多種多様な問題はあるものの、既存のシステムに影響を与えないクラウドシステムを独自に構築できるようになりました。
DXをする時の最初の第一歩は「見える化」であるとよく言われますが、最終的に必要なのは「できる化」まで持っていくこと。全社員で何をどのように変えられるのかを考えていけば、日本の会社組織も少しずつ変革するはずです。

我々はこの「できる化」を実現するため、新会社の立ち上げとスケールに挑み続けたいと思っています。

酒居:本日は貴重なお話を聞かせて頂き、ありがとうございました。

 

  • 今井 俊哉 氏Ridgelinez 株式会社
    代表取締役社長
    約30年にわたり、コンピュータ・メーカー、ITサービスプロバイダー、電子部品メーカー、自動車メーカーに対し、全社戦略、営業マーケティング戦略、グローバル戦略、IT戦略などの立案、組織・風土改革、ターンアラウンドの実行支援などのプロジェクトを多数手がける。富士通を経てブーズ・アレン・アンド・ハミルトンに14年在職。その後、SAPジャパン( バイスプレジデント)、ベイン・アンド・カンパニー(パートナー)、ブーズ・アンド・カンパニー(代表取締役)、PwC コンサルティング(副代表執行役) を経て、2020年4月より現職
  • 吉田 光伸 氏株式会社ミスミグループ本社
    常務執行役員 兼 ID企業体社長
    日本電信電話株式会社(NTT)へ入社後、日本オラクル株式会社を経て、2008年から株式会社ミスミグループ本社へ参画。事業責任者として国内事業の再構築・中国事業の成長加速を経て、ミスミグループ内の新規事業である「meviy(メヴィー)」の立ち上げに従事。2018年よりmeviy事業を展開するID企業体を設立、企業体社長に就任。製造業のDXを推進する革新的なものづくりプラットフォームとしてmeviyの成長を牽引。インターネット黎明期から一貫して「デジタル」を活用した数多くの新事業の立ち上げ、事業責任者としての経歴・実績を持つ。meviyオフィシャルサイト:https://meviy.misumi-ec.com/
    Twitter ID:@misumi_meviy (ID=Industrial Digital Manufacturing)

※本稿は、株式会社ユーザベースが主催する H2H(Home to Home)セミナー「伝統産業を変革する『DX × 新規事業』の挑戦」を記事化したものです。

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※法人名、役職などは掲載当時のものです。