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“攻め”のファイナンス組織を目指した組織・人材の変革 ―日本型FP&Aの実現に向けて―

経営者の役割は企業として進むべき方向性を示し、企業価値を高めることにあるということに異論はないであろう。

「CFOは経営者を財務面から支え企業価値の創造に貢献すべき」ということも、ここ20年来言われてきたことであるが、実際はどうであろうか。2000年の会計ビッグバン以降の各種の法定要件の増加、グローバル化に伴う各種管理体制の整備・強化等、法制度や各種制度整備への対応が中心となり、本来の価値創造への貢献まで到達できていると自信をもって言い切れるCFOは多くないであろう。

昨今、デジタル化やサステナビリティが注目される時代において、「CEO・事業部門長を財務面から支援して事業の成長と企業価値の創造に貢献する」というCFOとしての役割強化がさらに求められている。このいわゆる“攻め”のファイナンス機能を果たすためには、組織と人材両面の変革が重要である。

本稿では、ファイナンス機能の組織・人材面に焦点を当て、欧米企業で一般的なFP&A(Financial Planning &Analysis)組織と機能について紹介し、日本企業におけるファイナンス組織高度化の進め方を提案・解説する。

 

企業価値向上をリードする本社CFOの役割とは

これまで日本企業は事業部や子会社個々での利益追求を目指す「分権型」の経営を志向する企業が多く、結果として本社の機能は弱い傾向にあった。

これに対して欧米の企業は、事業部門がそれぞれの事業分野、地域においての競争力を磨く一方で、本社の財務や人事、ITといった各コーポレート機能が事業・子会社に専門人材を配置し、事業にとって必要な支援や統制を行い、企業体として全体最適をとる体制を整備してきた

コーポレート部門にはCFO、CHRO、CTO等の専門機能のトップがおり、外部環境や事業の状況を深く理解し、CEOを支えるマネジメントチームの一員として貢献する。

CFOはその中でも、マネジメント・コントロールをリードする責任者として、企業戦略を着実に実行するためのKPIや情報収集の仕組み等の設計、予実分析や将来の予測、アクションを促す助言を行い、事業や経営を支援する機能を担う。

 

日本企業における経営管理の現状と課題(組織・人材の観点)

日本企業のCFOも、企業体として全体最適を追求する取り組みとして、これまでシェアードサービスセンターやトレジャリーセンターを構築するなどして、出納や決算などの定型的な業務の集約化や資金管理の効率化、統制強化を図ってきた。

一方で、経営管理の領域では、CFOとして中長期戦略や計画策定には関与するものの、例えば予算の進捗管理については、事業部門から上がってくる報告内容を集計する役割にとどまってはいないだろうか。事業に関する意思決定はかなりの部分を事業部門に任せ、CFOとしてはかなり進行した段階で金額が大きいものだけ承認を求められるという状況ではないだろうか。

一般的な日本企業では、戦略や中期経営計画策定は経営企画部、年度予算と全社実績集計は経理部、事業の実績・予測やアクションプランは事業部配下の管理部門というように、経営管理や計数管理に関する業務が部門間で分断されていることが多く、いくらうまく連携してもズレが生じ、情報共有は不十分になる。

また、このような組織的背景もあり、人材面においては、経営管理を担当する人材の人数や能力・資質を把握することが難しく、経営管理の担当者としての体系だった採用・教育・キャリアパス構築ができていないのも日本企業の特徴である。

このため、本社と事業間に情報のみならず人的ネットワークや意識の断絶が起こり、情報が適時に共有・把握できないだけでなく、本社の立場から全社的な判断や適正な支援を行うことが難しく、結果として事業部や子会社任せの事業運営となってしまう。筆者らも経営企画部門や経理部門の方から、「事業の情報が事業個々に閉じているケースが多く、経営会議が現状報告の場となり、具体的なアクションについての討議や意思決定が行えていない」、「本社として事業の支援を行いたいが、事業のことがわからず、適切な助言ができない」等の声をよくお伺いする。

図1:日本企業の経営管理体制と典型的な課題

図1:日本企業の経営管理体制と典型的な課題

 

求められる経営管理体制の変革とは

もちろん事業部門が各事業の属する市場で個々に競争力を磨くことは大前提であり、今まではこのように事業部門個々の独立性に重きをおいた事業運営が機能していた部分もある。

しかし、昨今では、デジタル化によって自社のビジネスモデルの変革だけではなく、産業構造自体の転換までもが起こり得る時代となっている。事業部門は短期の収益責任を負っており、一般的に中長期の目線で市場(外部)を見る目が限定されている。自らの属する市場・産業を客観視することが難しいケースも多く、本社主導で事業を支援する経営管理体制を整えることが求められている。

経営管理体制の整備というと、予算管理のプロセスを効率化することやデータ活用の基盤を整えることなどが議題に上ることが多く、昨今ERPの更改と併せて、それらを進めている企業は多い。もちろん、それは重要なことであるが、経営管理を実際に行う“組織・人材”についても併せて検討を進める必要がある。「意思決定の質を高め、それをモニタリング・軌道修正することで、企業活動をコントロールし、事業目標を達成する」という経営管理の目的に照らせば、集約化・標準化されたプロセス・データをもとに、意思決定を行うために必要な原因分析やオプションの抽出・評価を体系的に行い、さらにそれを組織としての意思決定の型とすることが重要となる。(図2)

図2:ERP更改後に求められる意思決定手法の型化

図2:ERP更改後に求められる意思決定手法の型化

 

事業と経営をつなぎ、組織の意思決定を型化するFP&A

経営管理体制の変革を実現するためには、経営管理に関する役割、機能、手法をファイナンス組織として確立し、役割に求められるスキルや行動基準を規定して着実に人材を育成・配置していく必要がある。
これは欧米企業でFP&A(Financial Planning & Analysis)と呼ばれる職種であり、事業と経営をつなぐ存在として認知されている。

FP&Aには全社的観点からCXOのビジネスパートナーとなる本社FP&Aと、各事業側に深く入り込み事業責任者のビジネスパートナーとなる事業FP&Aの2つの機能がある。

本社FP&Aは、企業全体の視点からグループの財務目標の達成をリードする。
具体的には、後述の事業FP&Aからの情報をもとに事業実態を把握し、全社業績予測や資本効率を考慮に入れた事業別のリソース配分を経営に提案する。また、将来の環境変化を見据えた投資機会・潜在的リスクの報告なども行う。

事業FP&Aは、事業側に深く入り込み事業部門の業績目標の達成を支援する。
具体的には、市場や競合状況も踏まえた利益計画の策定・モニタリングから、需要予測・最適チャネル選定・価格決定におけるオプションの整理や経済性分析などの日常のオペレーションに関わる意思決定への関与まで多岐にわたる。

オペレーションに関わる支援は業種・業態によって異なり、例えば消費財企業では、ブランドを軸に市場や競合の動向を踏まえて顧客やチャネル別の収益分析を行い、価格設定やマーケティング施策の意思決定にも関与する。

また昨今では、事業単位での他社との提携・投資等も増加しており、これにあたっての事業・財務デューデリジェンスや投資採算分析も、事業とファイナンスの知見を持ったFP&Aが担うべき機能となろう。

図3:本社FP&Aと事業FP&Aの役割

図3:本社FP&Aと事業FP&Aの役割

このように事業FP&Aは、今まで事業部長や配下の事業管理担当の勘やセンスで行われてきた事業側の意思決定にファイナンスの観点を組み込み、それを型化し、客観性・再現性を高めることで、事業の業績目標や投資案件の目標達成度を向上させることに貢献する。

また、本社FP&Aは、事業FP&Aからの生きた情報に基づき、本社機能としての役割である事業ポートフォリオ管理や事業間の連携などに貢献できる。

欧米の先進企業では、FP&Aは会計・ファイナンスのプロフェッショナル、経営管理の専門家として認知された職業である。FP&Aを支援する団体が複数あり、資格試験や継続教育、必要なスキルのガイドなどを提供しており、個人の社内外でのキャリアアップが可能となっている。

 

日本企業に適した体制実現のための4つのアプローチとは

1. 現状の経営管理・計数管理人材を把握し、事業側人材の登用も含めて考える

FP&Aとして事業の意思決定に有効な助言を行うためには、事業のビジネスモデルやコスト構造、顧客や競合の状況を熟知する必要がある。そのため、経理財務人材に事業理解を求めるより、事業部門配下で事業管理・計数管理を行っている人材に会計・ファイナンスの視点をもたせることが近道となるケースも多い。

現状の経営管理・計数管理に携わっている人材を全社で把握し、強化したい機能(全社的視点からの計画策定か日々のオペレーションにおける事業の意思決定支援か等)を踏まえ、現状組織の形を活かした機能シフトを考えることが有効である。これは現在、計数管理を担当している個人にとっても、役割や必要なスキルが明確になり、より事業に貢献することによってモチベーションを高めることにもつながる。

2. 変革ニーズの高い事業部門を起点とし、制度設計から始める

複数の事業を持つ企業では、事業によって事業ライフサイクルや変革の必要性が異なり、事業側のニーズも変わってくる。特に、DXによる新規事業やM&A等で新たな経営管理手法が求められる事業においては、事業側のみによる体制整備が難しいことが多い。このような“変革ニーズの高い”事業を選定して、KGI/KPIやそれを取得するプロセス・システムの制度設計から始めることで、その指標に基づいた日々のオペレーションの予実分析やアクションプランの立案・実行に深く関与することが可能になる。

3. 個人の意識・価値観を理解してFP&A適任者を選定・育成する

組織体制の変更も大きな改革であるが、より重要なのは実務を担う要員のマインドセットの変革である。
一般的にファイナンス(経理財務)組織の人材は、未来の予測より過去の情報、将来の大きな絵より目の前の定型処理を正確に期日通りにこなすことに重きを置く傾向にある。FP&Aには事業環境に基づき将来を予測し、不確実な中でアクションプランを描き、卓越したコミュニケーション能力により意思決定の支援を行うことが求められる。こういった志向をもった人材を抜擢し、当初はプロジェクト事務局がOJTで支援しながら人材育成することが重要となる。

4. FP&A機能定着化のためのレポートラインや評価制度を整備する

事業と経営をつなぐにあたっては、FP&Aが事業側と本社CFO側の両方にレポートする「デュアルレポート」の体制が必要になる。一般的にマトリクス組織の運営は難度が高いと言われるが、事業特性や構成員の出身組織によりレポートの正副や、人事評価の重みづけを整備することによって運用が容易になる。欧米企業でも国ごとの特性が強い食品・消費財等は事業レポートが正(本社は副)、世界共通の製品の多い電子機器やITサービスは本社レポートが正(事業は副)、などとレポートラインを使い分けているケースもある。

 

日本企業でも誕生し始めたFP&A – 取り組み事例の紹介

昨今では日本企業でもFP&Aを配置する企業が増加している。各企業によって狙いやきっかけは様々であり、ここではいくつかの企業での取り組み事例を紹介する。

事業会社の統合に伴い本社からFP&Aを派遣

A社では、今まで事業部制やカンパニー制をとり、事業ごとの独立性を重視して新たなサービスを次々に生み出してきた。FP&Aの機能も各事業部に配置され、本社とのつながりは必ずしも強くなかった。しかし、時を経て事業会社間で人材を取り合うことがあるなどグループとしての最適運営を阻害する要素が大きくなっていた。この中で事業会社を統合するのに合わせ、FP&Aを本社に集約し、本社から派遣する体制とすることでマネジメント・ガバナンス強化を図る体制とした。

事業部門傘下の事業管理部門をFP&Aとして強化

B社では事業部門内に事業管理担当がおり、事業の予算・実績管理、予測等の経営管理業務を行ってきた。昨今のDX化の動きの中で、今まで多くの工数をかけてきた売上予測業務にAIを活用することによって抜本的な工数削減を実現した。それに伴ってできた余力をより付加価値の高い事業支援に振り向けるべく、事業管理部門をFP&Aとして再編成し、事業支援のための能力向上のための研修やツール整備を行っている。FP&Aは事業部門の一員として、データに基づいて事業成長につながるインサイトを事業部長にレポートするとともに、ファイナンス組織の一員として事業の状況やリスクに関する情報をCFOにレポートする体制としている。

 

まとめ

今回述べたような体制を実現するためには、第一に「ファイナンス組織としてどうありたいか」、「何を提供価値とするか」というビジョンの策定が重要である。特に日本企業では前述のように経営企画と経理で機能が分かれていることが多いという組織的背景からも、CFOだけでなくCEO自らが決断して環境・組織整備を行う必要がある。

Ridgelinezでは「ファイナンス業務の圧倒的な効率化を実現するプロセス・オーケストレーションとは」で紹介したプロセス・オーケストレーションやデータ活用基盤の整備に加え、ファイナンス組織・人材の変革支援サービスを提供している。特に、欧米企業におけるFP&A組織や手法を踏まえたうえで、日本企業にフィットするアプローチやツール(スキル・マインドセット調査ツール、FP&Aの職務定義書、人材育成プログラム等)を用意しており、これらをもとに伴走型で人材育成まで支援することを重視している。

「ファイナンス組織が定型業務から離れてビジネスパートナーに」と、ここ20年来言われてきたが、まだ多くの企業が7、8割のリソースを定型業務に費やしているというのが筆者の肌感覚である。昨今のデジタル化やサステナビリティ意識の高まりといった環境変化は、ファイナンス組織の変革にとっても大きなチャンスであり、Ridgelinezは変革を志向するリーダーに伴走してご支援したいと考えている。

 

 

執筆者

  • 加藤 弘毅Director
    Competency Group

監修:ストラットコンサルティング(株)