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社会課題解決型フェムテックの可能性

2023年3月8日(水)~9日(木)、産経新聞社メトロポリターナ「Fem Care Project」主催のオンラインイベント「フェムテックを、もっと! ―家庭や職場でココロとカラダを学ぶ2DAYS―」が開催され、弊社登壇者が「社会課題解決型フェムテックの可能性」と「ダイバーシティとインクルージョンが会社を強くする」の2セッションに参加いたしました。

「社会課題解決型フェムテックの可能性」のセッションでは、栃木県産業労働観光部次長 兼 産業政策課長 石井 陽子 氏、大阪大学 人間科学研究科 国際協力学 教授 杉田 映理 氏、弊社 川嶋 孝宣、今井 智香が対談を行いました。

 

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「ダイバーシティとインクルージョンが会社を強くする-「一人一人の輝き」が生み出す強さとは」レポートはこちら

 

FemTech(フェムテック)とは、Female(女性)とTechnology(テクノロジー)をかけあわせた用語です。月経や出産、不妊、更年期など女性特有の健康課題をサポートするツールとして注目されており、ヘルスケア視点のみならず、就業や産業創出、地域の労働政策など、様々な観点からその重要性が論じられています。

大阪大学の女子トイレ、多目的トイレ内の「生理用品の無償提供」や、産業創出・振興などの議論を通じ、フェムテックを一過性で終わらせず、「新しい当たり前」になる「持続可能な社会課題解決型フェムテック」の可能性を紐解いていきます。

 

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対談に先立って、大阪大学と栃木県それぞれの取り組みについて伺います。

大阪大学 杉田映理 氏からは、大阪大学が取り組む 「MeW(Menstrual Wellbeing by/in Social Design)プロジェクト」についてご紹介いただきました。Mewプロジェクトは「トイレ内で生理用品を無償で入手できる仕組みづくりを通して、月経のある人のウェルビーイングを前進させる」ことをビジョンに掲げ、月経にまつわる諸課題の解決を目指し、大阪大学で研究・実践を行っています。

代表的な取り組みとして、生理用品の無償提供用の装置「ディスペンサー」を企業と共同開発し、大学内のトイレに設置し実証実験を行っています。また、この取り組みを「社会に広げたい」と考え、実装のための仕組みづくりにも挑戦しています。予算や調達システム、体制づくりなど実装するためのハードルは多岐に渡りますが、何より大切なことは「生理用品のトイレ内設置が必要であること」へ共感してくださる企業や学生など、 “協力者の存在” であると杉田氏は語ります。

 

 

続いて、栃木県産業労働観光部の石井陽子氏からは、栃木県で取り組む産業政策についてご紹介いただきました。栃木県では「新とちぎ産業成長戦略」「とちぎ女性活躍推進プロジェクト」の一環として、女性活躍推進や働き方改革の推進に取り組んでいます。

現在の地方の産業政策の中でフェムテックに関連する施策は、働き方改革等に向けた企業における環境整備への支援や啓発活動が中心であり、フェムテックに繋がる取り組みは多くありません。ですが、既存の取り組みのなかにフェムテックの観点を組み込むことは可能であると石井氏は語ります。

例えば、フェムテックの普及・啓発活動によりフェムテックの重要性の理解を高めることで、新たなサービス・産業の創出に繋げることができるかもしれません。既存の取り組みであるスタートアップ支援の中でフェムテック市場への参入支援を行うことも可能です。地方の実情に合わせた取り組みを検討していくことが、フェムテックを根付かせる産業政策の実現につながります。

 

 

Ridgelinez川嶋(以下川嶋):ここからは、フェムテックを一過性のムーブメントで終わらせず「新しい当たり前にする」ために、私たちのできることを一緒に考えていきたいと思います。

 

フェムテックを “当たり前” にする仕組みやアイデアとは? 

杉田氏:ディスペンサーの利用者の声に「生理用品がトイレットペーパーのように置いてあるのが当たり前になる環境に」というものがあります。私たちも同じ思いです。振り返ってみると、自分が子供の時代には、「公衆トイレにトイレットペーパーがある」というのは「当たり前」ではありませんでした。このことからも、無かったものが「当たり前」になり、無いと「逆におかしい」と感じるようになるには、時代の変遷があるように感じますね。

石井氏:駅や大規模商業施設では、きれいでお洒落なトイレがあるのが当たり前になってきていますよね。そういった場所に生理用品を新たに設置することは、消費者から選んでもらえるという「集客の手段」にもなり得るかもしれません。施設の運営側がこのような取り組みを行うことで、「やらないと出遅れてしまう」という意識がうまれ、生理用品の設置が世の中に広まっていくように思います。

川嶋:調べてみたところ、トイレットペーパーが山手線の全駅に標準化されたのは、おおよそ20年前の話です。それまではトイレットペーパーを買うのが当たり前でした。かつてサービスだったものが、今では無償で提供するのが当たり前になっている。フェムテックでも、こういった変化を創り出していきたいですね。

Ridgelinez今井(以下今井):そうですね。今の当たり前も、かつては当たり前ではなかったという話はハッとさせられました。当たり前に置いてあるトイレットペーパーにも感謝しなければ、ですね。

私にとっては、生理用品を自分で用意するのが当たり前ですが、実はそれは当たり前ではないかもしれない……。生理用品に限らず、誰もが必要なものが必要な場所においてあることが、生活しやすい環境につながっていくようにも思いました。そういった観点に気づくこと、今の当たり前に疑問を持つことが必要なのだと思いました。

杉田氏:いきなり商業施設、というのが難しければ、自治体や学校、オフィスなどクローズドな環境から取り組んでいくのも、一つの突破口になるのかもしれませんね。

石井氏そうですね。そういったところは経営者の意識一つで変えることができます。そこから広がっていくものもありますよね。

川嶋:男性視点でいうと、悪気があるわけではなく、そもそも気がついていない、という人も多くいるはずなんですよ。今回のように、色々な話を伺う機会があれば問題意識を持てると思うので、このような機会をこれからどう増やしていくかを考えたいですね。

 

新しい取り組みをはじめる「ハードル」をどう乗り越える?

川嶋:新しい当たり前を創っていきたいと考えていても、最初の一歩を踏み出すにはハードルがあるようにも思います。石井さんは、公的な機関としての取り組みをどうお考えになりますか?

石井氏:特に男性が多い職場環境でフェムテックの必要性を理解してもらうことは簡単ではないと感じます。

実益がないと組織も動きにくいところがあるのかもしれません。その中で、私たちが取り組んでいる「とちぎ女性活躍推進プロジェクト」の活動を通して、1,300社を超える県下の企業が「応援団」になってくださっていることはプラスの状況とも感じます。私たちは子育て中の女性へのサポートをはじめ、女性管理職登用などへの施策を今後より一層積極的に行いたいですし、その延長線上にフェムテックがあると思っています。各分野の団体・業界に呼びかけて賛同者を増やしてきた経緯を活かして、この動きをさらに大きくしていきたいですね。

杉田氏:フェムテックの難しさのひとつに、「女性の健康課題」というテーマ故に、女性たちもあまり語りたがらないという点があります。(月経のような)身体経験のない男性にすぐに理解を求めるのは無いものねだりのようなものなんですよね。なので、今回のような発信の機会や直接お会いする際には、具体事例やデータを用いて丁寧に説明するようにしています。一度理解をしていただければ、性別関係なく応援してくださいます。こうした活動を地道に行ったことが今につながっているように感じますね。

今井:「応援団」というのはとても大切だと、お話を伺って感じました。普段タブー視されるような月経や女性の身体について、オープンな場で話をしたのは初めての経験でしたし、こういった取り組みが、「応援の輪」を広げる一歩になるように感じます。

川嶋:私自身のように、男性が女性の健康課題を知ることによってフェムテックに興味を持ち、「自ら発信してみよう」という意識に変わっていくこともあると思います。杉田さんと石井さんのお話を伺い、改めて「知る機会、情報が届く仕組みづくり」を具体的に考えていくことの大切さを感じました。

 

 

フェムテックを社会に届けるためにできること

川嶋:今回はフェムテックの「テクノロジー」だけではなく、社会に届ける仕組みの部分にもフォーカスして具体的なお話を伺えたことがとても良かったと思います。最後に、皆さんからメッセージをお願いできますでしょうか。

杉田氏:「5年後、10年後の日本がこのままではいけない。変えていきたい」という当事者としての思いを、皆さまと共に持って、今後もさまざまな活動をしていければと思います。

石井氏:「フェムテック」というと、どうしても“女性特有の話題”という印象が先行してしまい、男性の参画の壁になっているように感じます。一方で最近の若年層は、ジェンダー平等への関心も高く、県としての考えについて、インターンシップの際に質問を受けることもありました。こういう動きを見ていると、フェムテックのようなテーマこそ、若い世代にも入ってもらい一緒に考えていくことが重要だと思います。
ジェンダーや世代など限定せず、多様な方々とより広い視点で、理解を深めていくとよいと思います。

今井:月経がある私たち女性サイドにもアンコンシャスバイアスがないか、振り返る良い機会になりました。女性が働きやすくなれば、男性をはじめ誰もが働きやすい場所になるはずです。こうしたヘルスケアのテーマは、誰もがいきいきと輝き続けられる環境づくりにつながると感じました。今回のような声を上げていく活動を今後も継続していきたいと思いました。

川嶋:石井さんの言葉にもつながる、“ジェンダーテック” な活動ですね。私たちRidgelinezでも、今まで以上に取り組みを推進していきたいですね。

 

※法人名、役職などはイベント開催当時のものです。

 

《登壇者》

石井 陽子(栃木県産業労働観光部次長 兼 産業政策課長)

杉田 映理(大阪大学 人間科学研究科 国際協力学 教授​)

モデレーター

川嶋 孝宣(Ridgelinez株式会社 Director)
今井 智香(Ridgelinez株式会社 Manager)

※所属・役職は掲載時点のものです