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ジェンダーギャップ会議「誰もが輝く組織をつくる新時代のリーダーシップ ―ジェンダーギャップを超えて―」

2023915日、日本経済新聞社/日経BP主催のイベント「ジェンダーギャップ会議 ダイバーシティー経営の最前線 ―女性版骨太方針で、企業は変われるか?―」が開催され、弊社 関優子がパネルディスカッションに登壇いたしました。

「誰もが輝く組織をつくる新時代のリーダーシップ ―ジェンダーギャップを超えて―」と題して、情報通信研究機構(NICT)の盛合志帆氏とともに、組織におけるダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)の推進と、多様性を活かすリーダーシップについて議論しました。

 

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<登壇者>

  • 盛合 志帆 氏情報通信研究機構(NICT)執行役 サイバーセキュリティ研究所長
    ダイバーシティ推進室長
    京都大学工学部卒業後、日本電信電話(株)入社。以降、暗号、セキュリティ、プライバシーの研究開発に携わる。2003年東京大学にて博士(工学)取得。ソニー(株)等勤務を経て2012年より国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)入所。経営企画部 統括を経て2021年4月よりサイバーセキュリティ研究所 研究所長、2023年4月よりNICT執行役としてダイバーシティ推進室長も務める。令和5年度情報通信月間推進協議会会長表彰(情報通信功績賞)等受賞。文部科学省 科学技術学術・審議会 情報委員会専門委員、NHK 放送技術審議会委員等を務める。
  • 優子Ridgelinez
    執行役員Partner
    Chief Diversity & Inclusion Officer
    約20年にわたり、コンサルティング、自動車、Eコマース業界にて経営陣とともに経営戦略、組織開発、組織・風土改革、CX、従業員エクスペリエンスなどのプロジェクトを手がける。日産自動車に加え、ブーズ・アレン・ハミルトンの米国本社にのべ15年在籍。その後、デロイトトーマツコンサルティング(経営企画担当執行役員)、アマゾン(コンフィデンシャルプロジェクト)を経て現職。 ダイバーシティ&インクルージョン推進リーダーとして、経営課題であるダイバーシティをビジネスチャンスへと変えていくことをビジョンに掲げてD&Iを推進している。
  • 佐藤 珠希 氏(ファシリテーター)日経BP ライフメディアユニット長、 
    日経WOMAN発行人

※所属・役職は掲載時点のものです。

 

目次

  1. D&Iを組織に根付かせ、推進するための取り組みと挑戦
  2. ICT業界における女性活躍の現状と課題
  3. 多様な力を引き出す新時代のリーダーシップとは

 

 

テーマ1:D&Iを組織に根付かせ、推進するための取り組みと挑戦

従業員の熱意がトップの心を動かし、D&I専任組織の設置へ

佐藤:Ridgelinezさんと情報通信研究機構(以下、NICT)さんは、D&I推進室までの立ち上げの経緯が似ていると伺っております。それぞれの経緯と取り組みの内容について教えていただけますか?

 

 

:RidgelinezのD&I推進は「従業員起点」が重要なキーワードになります。元々は弊社CEOがD&I推進の必要性を感じ、従業員の中から有志を募ったことが発端なのですが、そのときに25名のメンバーが「D&I推進活動をしたい」と手を挙げてくれました。

まずは全員のベクトルを合わせるためにD&Iクレド「Accept and Respect for Synergy」を策定しました。これは有志メンバーで起案し、全社投票で決定したものです。その後も独自でトレーニングコンテンツを作ったり、ネットワーキングのイベントを開催したりと、様々な企画を従業員起点で実施しています。こうした有志の熱意ある活動が実を結び、専任の組織を作ろうということになり、CEO直轄のD&I推進室が後から出来たという経緯になります。

 

盛合:NICTでは今年、ダイバーシティ推進室という組織が発足しました。私たちも最初から組織が出来たわけではなく、元々はボトムアップでダイバーシティ推進に関する取り組みの提案が上がってきたことがきっかけでした。ワークショップや研修を通じて機構内の理解を深めていくことや、NICT流の女性活躍案を作成して提案することなどを目指し、昨年プロジェクトが発足しました。こうした提案がボトムアップで上がってきたことがトップの心を動かし、今年から理事長特命でダイバーシティ推進担当の執行役が置かれ、私がその役に就きまして「まさにこれから!」という状況です。

 

佐藤:D&Iの推進にはトップダウンとボトムアップの双方が必要だとよく言われますが、RidgelinezさんもNICTさんも、従業員の皆さまの熱い思いがトップを動かし、専任組織が置かれることになったという点が特徴的ですね。

 

 

会社として活動を後押しする仕組みづくりが大切

佐藤:Ridgelinezさんは、当初25名だった有志メンバーが3年を経た現在は60名にまで拡大しているそうですね。活動を推進し続けられた秘訣があれば教えてください。 

 

関:こちらに写っているのが、実際に有志で手を挙げてくれた従業員の一部です。活動を続けていくためには、やはり従業員がオーナーシップを持って熱量を燃やし続けることがすごく大切だと思います。 

 

 

盛合:私たちはちょうど組織の立ち上げ時期で、D&I推進活動に参画してくれるメンバーを募っているところなのですが、メンバー集めに苦労しています。例えば本人がやりたいと言っているのに、上司がOKを出してくれないことも多くて……。Ridgelinezさんはどのように仲間を増やしていったのでしょうか?

 

:活動したいという気持ちがある従業員が動きやすい仕組みづくりが大切だと考えています。従業員が手を挙げてくれた際に、業務への影響を懸念して現場でストップをかけるといったことがないよう、従業員からの希望があれば「D&I活動に時間を割いてよし」とする制度が整っています。もちろん、業務はしっかり取り組むという前提があってのことですが、D&I活動に限らず、そういった会社の成長に貢献した活動については、年次評価の中に組み入れることができるようにもしています。

 

盛合:安心して活動ができる制度や貢献を評価する仕組み、すごく大事だなと感じました。こうした活動にはやはり応援団は必要で、経営側によるサポートがこの活動の後押しになっているのではと感じます。Ridgelinezさんの活動メンバーは、男女比率が等しいことが印象的でした。D&I推進においては、マイノリティの集まりだけにせず、すべての人が自分事として関わり協力し合うことも活動を継続していくために重要だと思います。

 

:経営側の役割は、まずは指針を提示することと自らコミットメントを示すことですが、そこから先は従業員を信頼して皆さんの強みを活かすサポートに徹することが大切ですね。従業員が情熱を燃やし続けられるよう、私も従業員の応援団であり続けたいと思っています。

 

 

テーマ2:ICT業界における女性活躍の現状と課題

STEM人材の採用とキャリア支援が重要

佐藤:ICT業界におけるダイバーシティを考えるうえでは、女性理系人材の少なさという現状を、社会や組織がどう解決していくのかが非常に重要だと思います。OECD(経済協力開発機構)の調査によると、大学など高等教育機関の理工系進学者に占める女性の割合が、日本は加盟国の中で最低水準という状況にあります。STEM(科学・技術・工学・数学)人材の育成について議論を深めていければと思います。

 

 

盛合:STEM領域に進む女性が少ないということで、専門知識が必要とされる理工系研究者の女性割合も、必然的に低くなっています。
NICTで研究職あるいは研究技術職の正規職員として採用される女性の割合は、20%という目標を掲げておりますが、昨年度の実績は13%でした。また、管理職に占める女性の割合は目標7%に対し、5.7%という状況です。こうした現状を変えていくために、女性限定公募を今年度初めて実施しました。公募のPRのために女性研究者の素の姿をお伝えするショート動画シリーズを制作してSNSで発信したこともあり、おかげさまで多くの応募をいただきました。

 

佐藤:私も拝見しましたが、まさに研究者のステレオタイプがガラガラと音を立てて崩れるような動画で、とても楽しませていただきました。

 

 

 

:Ridelinezでもジェンダーギャップは課題となっています。コンサルタント職の中でもTech系の女性比率が低く、人材確保が急務となっています。そのため、Tech系の女性人材の採用には力を入れており、女性従業員との座談会イベントの開催や、専門領域で活躍する女性従業員のインタビューを発信するなど、実際に働いている従業員を通じてリアルなイメージを伝える施策を行っています。

また社内では、女性のキャリア育成ディスカッションの実施、リーダーシップ研修への選出・派遣の他にも、個々の状況に応じたコーチを選定したり、キャリア育成スポンサーをつけたりといった個別支援を行い、女性のキャリア形成におけるパイプラインの強化・育成を実施しています。

 

 

多様な関わりを持つことで、STEM分野への興味関心を醸成

佐藤:一社一社の取り組みも大事ですが、日本の古くからの風土によって女性が理系を選択する機会が阻害されているのではという問題意識もあります。官民問わず、日本全体で取り組んでいくべき課題だと感じておりますが、いかがですか?

 

盛合:子どもたちのエンジニアリングやサイエンスへの興味を醸成する機会づくりに、研究機関や企業が積極的に関わっていくことは大切だと感じます。高校など、理系を選択するような時期に、いわゆる出前授業(専門的な知識を持った社会人が、教育現場に出向き授業を行う出張授業)のお声がけがありましたら、積極的に協力させていただきたいですし、いろいろなロールモデルを発信していきたいと思っています。

 

佐藤:関さんはアメリカでのご経験が長いですが、日本とアメリカの違いを感じたことはありますか?

 

:アメリカのコンサルティング業界では、10年ほど前からSTEM人材確保は喫緊の課題になっていました。そのときに何をしたかというと、大学や高校でコンサル業界におけるエンジニアのキャリアについてお話をしたり、今はさらに小中学生まで踏み込んで、エンジニアリングやサイエンスに興味を持ってもらったりする機会をつくる活動もしています。企業にとって将来の採用パイプラインづくりの意味もありますが、社会課題であるSTEM人材育成という社会への還元、地域社会との関わりといった、一石三鳥の取り組みを進めていました。


佐藤:今日のパネルディスカッションを機に、日本でもそのような活動を広げていきたいですね。

 

 

テーマ3:多様な力を引き出す新時代のリーダーシップとは

支配型リーダーシップから支援型リーダーシップへ

佐藤:ダイバーシティを力強く推進し、組織の成長につなげるためにはどのようなリーダーシップが必要なのでしょうか? お二人はリーダーとして、どのように多様な個性を引き出そうとしていますか?

 

盛合:私は初の女性研究所長となったため、就任した当初はリーダーとしてのあり方に迷いがありました。これまで私が抱いていた研究所長のイメージは、威厳があって下の人はその方の指示に従って動くという、いわゆる支配型リーダーシップのイメージだったのですが、自分がいざその立場になってみると、自分で振る舞うには違和感があったのです。そこで、自分が自分らしくいられるリーダーシップを実践していたところ、自然と支援型リーダーシップに行きつきました。

リーダーシップに関しては時代とともにいろいろな理論が提唱されてきていますが、ロバート・K・グリーンリーフ氏が提唱した「サーバントリーダーシップの10の特性」が、まさに私が行き着いた支援型のリーダーシップを支えてくれる考え方だと感じています。「リーダーである人は、まず相手に奉仕し、その後、導くものである」という考えがもとになっていて、10個の特性が挙げられています。

 

 

佐藤:まさに盛合さんらしいリーダーシップのあり方ですね。関さんも自分らしいリーダーシップで周りを引っ張っていかれているとお見受けしますが、どのようなことを意識してマネジメントされていますか?

 

:私は、自分自身のパーパス(存在意義)として「私が私らしくあることで周りの人々を輝かせること」を掲げています。私も最初は自分らしいリーダー像について模索した時期もありましたが、私自身が私らしくふるまうことで、周りのメンバーも自然体でいられることに気がつきました。一緒に働くメンバーが自然体のままで自信を持って働けるように、本人が気づいていない強みを意識的に伝えるようにしています。

リーダーとしては、サーバントリーダーシップの10の特性の中に「気づき/Awarness」がありましたが、自己を認識すること、自分の心の動きや状態に気づくこと「セルフ・アウェアネス」が大切かなと思います。

そして、従業員一人ひとりの多様な力を引き出すために、もう一つ大切なことは、経営トップによるコミットメントです。Ridgelinezでは経営層がD&I推進に関する自らの行動宣言を行い、社内に公開しています。組織の多様性データは毎月社内公開され、特に「女性比率の向上」は全役員のKPIとして設定されています。

 

盛合:トップが発するメッセージも重要ですよね。「Ridgelinezは違うことが当たり前の環境の中で、真剣に、かつ健全にコンフリクトを乗り越えながら、日々切磋琢磨している」と関さんがお話しされていて、その点にとても共感しました。なんとなく意見が違うなと思っても、しっかりと向き合って逃げずに話をしていくことはとても大切なことですよね。

 

 

:コンフリクトがあるからこそ多様な視点でのディスカッションができ、新しいアイデアが生まれます。リーダーだけが答えを持っているというわけではないので、従業員にはいろいろな視点で新しい施策を提案してもらいたいですね。

 

盛合:これまでは1人の優れたリーダーがいれば物事が動かせた時代でしたが、不確実性の高いこれからの時代においては、集団の力を活かして集団で解決していくことが必要です。働く個人の自律的な労働観を醸成し、生き生きと動けるように心理的安全性を確保することがチームの業績向上につながります。「権限による支配」ではなく「信頼による支援」、それがまさにD&Iが求められる時代に必要なリーダーシップなのではないでしょうか。

 

:私たちは、D&Iには正解も終わりもないと思っています。多様性のあり方は組織によってもチームによっても異なりますし、常に働きかけ推進し続けていくものだと思います。今回こうして盛合さんとお話しする機会もいただけましたので、業界の壁を超えて、取り組みを続けていきたいと思っています。

 

佐藤:ぜひ横のナレッジシェアを日本中で巻き起こしていきたいですね。